サッカーの試合を観戦する際、多くの方は華麗なパス回しや選手の足技、あるいは最新のスパイクに目を奪われる方が多いでしょう。
しかし、ピッチ上に広がる緑の芝生もまた、勝敗を左右する重要な戦術の一部であることをご存知でしょうか。
最近よく芝生のことを気にされる方が増えてきたので、ちょっと久しぶりに芝生管理者らしいブログ記事を書こうかなと思います。
ただの植物に見える芝生ですが、実は適切な管理がなされて初めてサッカーに多大なプラスアルファの効果を与えます。
今回は、芝生がいかにしてサッカーの戦術やプレーの質に関わっているのかをご紹介します。
毎試合毎試合芝生のことに注目して見なくてもよいので、このブログを読み終わった後からは、少し気にかけてみてください。
この記事は大昔に書いたこのブログをアップデートしたものになります!

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ブログの作者Ikumi
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今までも芝生に関しての記事をたくさん書いてきましたので、
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芝生キャリア
なぜ頻繁に芝刈りを行うのか?
芝生とサッカーの戦術の話に入る前に、なぜ芝刈りを行うのか、この点を書きます。
高度な戦術的グラウンドを作るためには、日々の芝刈りが欠かせません。
芝刈りは単に景観を綺麗にするだけでなく、芝生そのものを強くするための重要な作業です。
葉を刈り取ることで、植物は生命の危機を感じて品種によっては横へ横へと茎を伸ばしたり葉の枚数を増やそうとしたり、根を深く張ろうとします。
これにより激しいプレーでも簡単にはえぐれない、ベッドのスプリングのように圧力の分散が効いた頑丈なピッチが出来上がります。
もちろん、芝刈りだけで芽数が増えるわけでも根っこの量が増えるわけではありません、
葉っぱや茎は、芝生が栄養分を貯蔵している部分で、それを刈り取ってしまうわけですから、芝生にとってはたまったもんじゃないです。
適切なタイミングの肥料あってこそ、芝刈りが順調にできて、より高いクオリティにできます。
とはいえ、強い芝生の根底には、基本中の基本の芝刈り作業があります。
また、サッカーのプレーにおいても芝生の管理が行き届いていると、プレーしやすいのではないでしょうか?
まずメンタル面の話だと、汚い大荒れなグラウンドでプレーするのと、きれいに整った芝生の上でプレーするのではやる気が違ってくるのは、なんとなく想像つくでしょう。近所の公園とエミレーツスタジアム、どっちでサッカーしたいですかという話です。
自分はいつも、選手たちがここで早くボールが蹴りたいと思ってもらえるような芝生つくりを目指しています。
話を戻して、芝刈りをすると、芝生の高さが一定になることでイレギュラーなどを起こしにくくなり、プレーへの干渉を最小限にできます。
我々は目立たないことがモットーともいえ、芝生が目立つときは基本的に荒れた状態の時が多いことは皆さんも存じ上げていることでしょう。
まずはきれいに見せるというのも、管理者にとって必要なスキル。
では次は、おまちかねの戦術と芝生についてです。
芝生の長さがプレースタイルを決める
サッカーと芝生の関係において、最も戦術的な影響力を持つのが刈高(芝生の長さ)です。
芝生の長さはFIFAとUEFAの規定では20mm-30mmとされています。その範囲内であればチームによって決めることが可能です。
芝生が短く刈り込まれていれば、ボールへの抵抗が減り、パススピードが格段に速くなります。
そのため、細かくパスをつなぐポゼッション主体のチームは、ホームスタジアムの芝を短く保つ傾向にあります。
一方で、あえて芝生を長く残すことで相手の戦術を封じるという戦略も存在します。
有名なエピソードとして、ジョゼ・モウリーニョがレアル・マドリードを率いていた時代、当時圧倒的なパスサッカーを誇っていたバルセロナ対策として、ホームゲームでの芝刈りと散水を禁止したことがあります。芝生が長く乾燥した状態(当時は30mm以上あったとも言われています)ではボールが転がりにくくなり、結果として相手の持ち味を消し、引き分けに持ち込むことに成功しました。
まさに芝生を「12人目のディフェンダー」として活用した例です。
ただし、芝を長くしすぎると足が取られやすくなり、自チームの選手も含めて負傷のリスクが高まるという諸刃の剣でもあることは忘れてはいけません。
これも実例があり、2017年9月16日に行われたヘタフェvsバルセロナ(1-2)では、いつもの対策としてグラウンドの芝を長くしバルセロナを向かい打ちました。
しかしその影響なのか、両チーム1名ずつ負傷してしまうゲームとなってしまいました。
芝生が長いと、かなり走ったり歩いたりしにくくなる。それによって足が芝生に取られてしまった可能性がある。
このように、チームの戦術だけでなく、選手のコンディションにまで芝生というものは影響を与えています。
試合前にピッチに水を撒く理由
最近のプロの試合では、キックオフ前やハーフタイムにピッチへ勢いよく散水する光景をよく目にするようになりました。これはサッカー協会が散水するよう指示している国もありますが、これには大きく2つの理由があります。
1つ目は、芝生の表面を滑りやすくしてボールスピードをさらに上げること。
2つ目は、地面に水分を含ませてクッション性を高め、連戦による選手の疲労や足腰への負担を軽減することです。
水を撒いたピッチはボールがスピーディーに動く反面、選手自身も非常に滑りやすくなります。
そのため、海外や日本のプロ選手の多くは、金属製の鋭いスタッドがついた「取り替え式スパイク」を着用し、しっかりとグラウンドをグリップできるように対策しています。
具体的な事例としては、ルイス・エンリケがバルセロナにいた時、芝生を最小限の規定ぎりぎりの短さでカットし、パススピードを上げるために散水時間をキックオフ何時間前から緻密に計画していたそうです。
マウリツィオ・サッリは、ナポリやラツィオ時代に、短く滑らかなピッチコンディションを希望していたそうです。
ちなみに、日本国内、Jリーグにおいてはおそらく現在も芝生の長さに関しての規定はないはずです。なので、クラブによって明確に芝生による差を作ることができ、個人的にはチーム一丸となって戦っている感じがあり好きです。
まとめ
芝生は、現代サッカーにおいて単なる背景ではなく、チームの戦術を体現する強力な武器にもなります。
人工芝でも水を撒けばボールの転がりは速くなりますが、相手に合わせて芝生を短くしたり長くしたりすることはできません。
これは天然芝だからこそ生み出せる究極のホームアドバンテージです。
次にサッカーを観戦する際は、ぜひ足元の芝生にも注目してみてください。
ピッチの状態から、そのチームの戦術や監督の狙いが見えてくるかもしれません。
ちなみに、以前のブログで書いたアトレティコ・マドリードさんのスタジアムに関しては、あえて芝生を長くして水を撒いたわけでも、水を多く散水したわけでもなく、私が見た感じだと、非常に芝生管理に苦戦を強いられていたように感じました。やはりNFLの練習後の張替えから長雨が芝生の生育を鈍らせたといっていいでしょう。

そして屋根の形状や材質も苦労する要因かもしれないなと感じました。この点に関しては、また後日書きましょう。


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