今回は、近年Jリーグでも導入され始めたハイブリッドターフについての話をしていきます。プレミアリーグのクラブではすでにほぼすべてのクラブが練習場とスタジアムに採用していますね!
ここでは、ハイブリッドターフとはいったい何なのか。どんなメリットデメリットがあるのかといった疑問を解決していきます。
そもそもハイブリッドターフって何?
近年よく耳にする単語になりつつあるハイブリッドターフ。そもそも何者なのだろうか。
ハイブリッドターフとは、天然芝と人工芝を混ぜて作ってあるピッチのこと。
天然芝の割合の方が圧倒的に多いのはもちろんのこと、その割合はJリーグの規定においては、およそ5%までの人工芝繊維であれば、サッカーとして公式戦を利用できるというもの。
このように、天然芝の中に一定の人工芝の繊維を入れてある状態こそが、ハイブリッドターフと呼ばれるものです。
欧州では既に各国各リーグのスタジアムや練習場で採用されており、アーセナルやマンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール、トッテナム・ホットスパーといった多数の名門クラブも採用している立派な技術です。
Jリーグでは、2018年にヴィッセル神戸のホームスタジアムであるノエビアスタジアム神戸で初めて採用。これを契機に、ラグビーワールドカップのこともあって日産スタジアム、味の素スタジアムなどの大きなスタジアムでも過去に採用された実績があります。
そのハイブリッドターフにも、大きく分けて3種類あり、1つ1つ解説していこうと思います。
打ち込み式(ステッチタイプ)
ステッチタイプと呼ばれるこの手法は、天然芝に一定の間隔で人工芝を打ち込んでいく方法。
長さ約18cmの繊維を地面に打ち込み、地上には約2cm(20mm)ほど人工芝繊維が顔を出している。
この20mmというのは、プレミアリーグの基準にあっているもので、プレミアリーグでは20-30mmの長さでなければならないという明確なルールが存在しているから、人工芝繊維も20mmにしています。
日本ではもっと短くしているとこもあるのではないでしょうか?
メーカーは、他の工法よりも寿命が長いとうたっており比較的長持ちするよとうたっており、打ち込むのにおよそ1~2週間という長い時間が必要です。
おもな採用チームは、アーセナルのエミレーツスタジアム、マンチェスター・ユナイテッドのオールドトラフォードなど、プレミアリーグでは多くのクラブが採用しているタイプ。
カーペットタイプ
カーペットタイプは、あらかじめ天然芝を生育する予定のグラウンドの下に人工芝を敷いておき、その上から砂を入れて種を撒きピッチを作っていく工法。
地上には打ち込みタイプと同じで2cmほど顔を出しており、繊維と天然芝の割合は各国リーグの規定によって定められている割合になっています。
耐久力という面では、ステッチタイプよりも劣るといわれているものの、人工芝を敷くだけで作業を終わらせることができるため一晩で作業が完了するというメリットがあります。
採用チームは、トッテナム・ホットスパースタジアム、カンプ・ノウ、アヤックスのホームスタジアムであるヨアン・クライフアレーナなど。
カーペットタイプは、打ち込み式よりも寿命が短く3年ほどで寿命が来ると。ただインストールに時間はそこまでかからないので、どっちのメリットが大きいかを選ぶ必要はあるかと。
人工芝繊維補強式
人工芝繊維補強式は、カーペットタイプと似ており、芝生の下にマイクロファイバーを敷くことによって補強。
カーペットタイプと異なる点は、芝生表面に人工芝繊維が出てこないことです。そのため、他のハイブリッドターフと比べると、表面上は100%天然芝の状態といえます。
では一体何を補強しているのか。芝生の根が絡むことによって剥がれないように補強しています。材料は繊維状のマイクロファイバーを根に見立てており、そこに炭化したコルクを混ぜることでクッション性を出しています。
ただ、他のものと違って若干芝生の耐久性は劣るかと。
採用しているチームは、主にフランスが多く、EURO2016の試合会場の半数以上に採用された実績がある。マルセイユやリヨン、サンティティエンヌなどがある。
ハイブリッドターフのメリット
では、ハイブリッドターフにすることでいったいどのようなメリットがあるのだろうか。
剥がれにくくなる
まず芝生が剥がれにくくなり、ダメージが軽減できます。どのハイブリッドターフにも言えることですが、芝生や芝生の根と人工芝繊維が絡むことによって、踏み付けやターン時などのダメージを軽減することができます。
100kg近い選手たちが踏ん張ってぶつかり合うスポーツのラグビー。ラグビーワールドカップをご覧になった方もいると思うが、簡単に大ダメージを芝生へ与えてしまいます。
芝生の耐久力が上がれば、サッカーをプレーするうえで支障になり得る凸凹は少なくなります。
さらにサッカーだけでなくラグビーなど異なるスポーツも併用することができて、スタジアム持ち主にとって収益アップも見込めるように!まあ、その分グラウンズパーソンの負担は増えますけどね笑
クッション性の向上と保水性(人工芝繊維補強式のみ)
次は人工芝繊維補強式のみに言えることですが、地面の下に人工芝繊維とコルク材を入れることによってクッション性を保つことができます。
クッション性を保つとはどういうことかというと、着地した際に身体へかかる負担が少なるなるということ。エアファイバーのパンフレットに掲載されているが、ケガのリスクが減ったという研究結果があります。これらからも、芝生の管理が楽になるだけでなく、選手にとってもプラスに。
そしてコルク材が含まれていることによって、保水性が向上。
散水の頻度や肥料の流亡(水と一緒に流れてしまうこと)を防ぐことができるため、管理費用の削減が可能に!
通常天然芝を管理していくうえで、特にスタジアムレベルの管理になると、たくさんの費用が掛かってしまうので、少しでも削減でき、芝生の管理も楽になるのであれば、ハイブリッドターフは申し分ないでしょう。
滑りにくくなる
特徴として、人工芝繊維が天然芝を支えているおかげで滑りにくくなるという利点があります。
原理から分かるかと思いますが、人工芝繊維が表面に出てスパイクが必要以上に滑らないようにロックしてくれるので、滑りにくいです。
しかしながら、日本でよく目にしていたのが、ハイブリッドターフを採用していたノエビアスタジアム神戸さんでは非常によく滑ると。
この原理はあくまでも今は推測ですが、ハイブリッドターフの一番の天敵は、私が思うに人工芝繊維が砂、有機物などが堆積した影響で埋もれてしまい効果を発揮できなくなることではないかと思います。
また有機物が堆積する影響で、コケなどが生えやすくなり、それが滑る原因になっているのではないかと。
みなさんも公園で表面になにかヘドロのようなものがあるのを見かけたことはありませんか?長年有機物を堆積したままにしてしまうと、ああいったものが出てきてそれが悪影響を与えます。
イングランドでは練習場も含めてハイブリッドターフのあるピッチはリノベーション(前年の芝生を撤去し新しい芝生を種から育てる)をほぼ毎年実施しています。つまりハイブリッドターフも芝生も有機物も全て撤去して新しい状況から育てなおすということです。
ですので、どのように土壌表面の環境を整えることができるのかがカギになるのではないかと思います。日本ではまだまだ導入され始めて新しい技術ですので、より新技術を浸透させるためにも、私はイングランドで多くのことを学んでいきたいです。
ハイブリッドターフのデメリット
ハイブリッドターフのメリットを皆さんに知っていただけたが、一方でデメリットもある。それも解説していきたい。
コストがかかる
ハイブリッドターフを導入するうえで最も検討するべきなのは、コストがかかるということ。
もちろんグラウンドの大きさによって人工芝繊維を導入する量も異なるので値段は一概には言えない。
しかしながら、いくら芝生のクオリティが上がって、収益性が向上したところでハイブリッドターフにしたことによる支出が黒字にならなければ何の意味もない。
また、人工芝繊維であるがゆえに、寿命があるもの事実。すると今度は導入コストだけでなく、撤去するコストと産業廃棄物として処理するためのコストもかかってくる。
これらをペイできるのかどうかがを十分に検討して赤字にならないかどうか判断する必要があります。
芝生の長さを調節しにくい(ステッチタイプとカーペットタイプのみ)
ステッチタイプとカーペットタイプは、芝生の表面に人工芝繊維が出ていることでよりダメージを軽減できる。しかし人工芝繊維はあくまでも人工物であり、一度切り取ってしまうと回復することはない。
そのため、通常であれば2cmの長さを表面に出しているのだが、言い換えればそれ以下の芝生の長さにすることはナンセンスです。
もし最初から天然芝の長さを低くすることが決まっているなら、人工芝繊維が表面に出る長さを短くしておけばよい。だが途中で芝生の長さを変えたとしても、人工芝繊維はそのままの長さである。シーズン中に芝生の長さを変更しにくい。
芝生の長さを変更するタイミングがいつなのか気になった方もいるでしょう。
日本では芝生の長さに規定はなく、そのため対戦相手によって長さを変えるチームも出てくる。
以前の記事でも書かせていただいたが、芝生の長さがサッカーの戦術にも関わってくるファクターの1つであるため、こういった長さの調節ができないのは1つのマイナス点といえる。
そしてもう1つは、ヨーロッパでは通年寒地型の芝生だけで管理しているが、日本国内の多くのグラウンドでは、オーバーシーディング技術といって、暖地型の芝生の上に寒地型の種を撒く手法を取っています。
この技術では、春先に寒地型から暖地型へ切り替える際に、芝生の長さを短くして、寒地型芝の下の方で休眠している暖地型芝に光を与えて暖地型芝の休眠を打破し生長するようにしています。この時にどうしても芝生の長さを短くする必要があります。
その点、ヨーロッパなどでは規定として20mm以上というルールが存在しているため、比較的容易に導入しやすいのも事実。
とはいえ、全て使い方と考え方次第でしょう。
散水と施肥頻度が多くなる(ステッチタイプとカーペットタイプのみ)
人工芝繊維がある影響で、そこを水が伝って排水されやすくなるメリットがありますが、裏を返せばそれだけ水が必要になるということです。
また、基本的に肥料は水に溶けることで芝生に吸収される。
そのため、排水性が良いということは、肥料の養分がなくなるのも早いということ。
ということは散水量が増え、肥料の量も増えるので、必然的に管理費用が高くなる。この費用が果たしてプラスになるのかマイナスになるのかを検討する必要がありますね。
表面が硬くなる?
これは今でも多くの議論がされていることです。ハイブリッドターフを導入した影響で、プレミアリーグでも筋肉系のトラブルが増えたのではないかという方が一部でいます。
確かに100%天然芝と比較すると、芝生を滑りにくく、剥がれにくくするということは、すなわちそれだけ多くの負荷を選手たちにかけているともいえます。
しかしながら、表面が滑って捻挫やそのほかのケガもハイブリッドターフ採用前には多かった、そしてこれら筋肉系のケガには科学的根拠はないとも。そのため、ハイブリッドターフの恩恵は大きいとの見解もあります。
また、近年の筋肉系のトラブルの要因としては、過密日程も大きな要因の1つだと思います。
エアファイバーは水持ちが良すぎる
アーセナルトレーニングセンターでも1面だけエアファイバーを採用していますが、夏場は1週間水やりをしなくても平気で持ってくれます。
その一方で冬場は、水持ちが良すぎるあまり、氷点下以下になった場合、地面の中にある水が凍ってしまい、スパイクが刺さらないなんてことも起こります。
まとめ
ハイブリッドターフは芝生の耐久力が上がるだけでなく、ボールの転がりがよくなることなどプレー面でも良い面を与える。また人工芝繊維補強式だと、芝生のクッション性が上がるなど、選手を守る面もある。
その一方で、コストがかかるためじっくり検討する必要がある、日本のオーバーシーディング方式では合わない可能性があるなど、現在の管理手法と照らし合わせて導入する必要がある。
また、コンサートなどのイベントにおける重いものを載せた場合のダメージ軽減は、できないとの見方もある。日陰などのもともと生育の悪い部分の成長が良くなるわけではないなど、スポーツ以外での利用ダメージの軽減が100%できるわけではない。
ハイブリッドターフの導入が必ずしもいいというわけではない。使い方次第では良くも悪くもなるので、それもグラウンズパーソンの腕の見せ所ではないでしょうか?
日本では残念ながら撤去されている場所が多いですが、それはまだ日本に導入されてたった5年程度のため、管理手法を分からない方が多いからだと思います。
皆さんは応援しているチームの導入理由を調べてみると、面白いかもしれないですね!
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