コラム:最新鋭の技術が詰まったトッテナム・ホットスパースタジアムの全貌【施設設備編】

スタジアムレポート

トッテナム・ホットスパースタジアムは、2019年4月にトップチームが利用開始したばかりの新しいスタジアムだということは、スパーズサポーターのみならずサッカーを観戦するもの、とりわけプレミアリーグを観戦している人はみんなが存じていることだろう。

今回は、この最新鋭の技術が詰まったスタジアムについて話していきたい。長くなるので、施設設備編と芝生管理編の2本に分けてお届けしよう。(この記事はCSのディスカバリーチャンネルで放送された潜入!超巨大建造物の内容を一部拝借しています。現在再放送の予定はなく検索エンジンにも引っかからなくなってきた)

LONDON,ENGLAND – DECEMBER 16: A general view of inside the new stadium during the Tottenham Hotspur New Stadium Fan Event on December 15, 2018 in London,United Kingdom. (Photo by Tottenham Hotspur FC/Tottenham Hotspur FC via Getty Images)

スタジアムの概要

まず簡単に概要から説明していこう。

建設費用はおよそ10億ポンド(日本円で約1400億円)。建設に携わった人数はおよそ5000人。使ったコンクリートは面積にして72000㎡分。設置されたドアの数は全部で1600か所。スタジアムにはサッカースタジアムでは初のビールの醸造所もあり、ヨーロッパ最大級のバーカウンターもある。

トイレは471か所。モニターは4隅に設置してあり、その大きさは高さ11m、横幅29m。座席間にあるリボンビジョンは全長約1km。テレビのモニターの数は全部で1800か所に設置してある。

またスタジアムと一緒にクラブストアが併設されており、スタジアム利用開始よりもこちらの方が先に稼働していた。収容人数は62,062人でお隣エミレーツスタジアムの60260人を上回るように設計された。

そして何と言っても注目なのは、NFLの試合をするために人工芝が天然芝の下に隠れており、二刀流のスタジアムとして稼働することだ。以上がざっくりした概要だが、これだけでもその規模の大きさに驚かされる。

余談だが、お隣のライバルチームであるアーセナルが使用するエミレーツスタジアムは、建設費およそ4億3000万ポンド(約587億円)。日本の新国立競技場は約1590億円。下記にはスタジアム内の詳細などを書かせていただくが、それにしても日本の国立競技場がいかに法外な金額でポンコツなスタジアムなのかは理解できるだろう。もちろんサッカースタジアム以外の利用も考えてのことだが、陸上の大きな大会をオリンピック後は開くことができないらしい。正直この国立競技場は負の遺産になるだろう。

さて、話をスパーズの本拠地に戻そう。初の試合を行ったのはトップチームではなくユースの試合、そしてレジェンドマッチを行った後に、トップチームが2019年4月のクリスタル・パレス戦でお披露目となった。なお、このスタジアムでの最初のゴールスコアラーはソン・フンミンである。遅れてしまった要因は詳しく発表されていないが、どうやらセキュリティの問題があったとのこと。完成までに時間がかかってしまったが、およそ3年で作り上げたとは思えないほどのクオリティにこれから皆さんも驚かされることだろう。

スタジアムの特徴

自家製ビール醸造所

このトッテナム・ホットスパースタジアムでは、サッカースタジアムでは初となるスタジアム内にビール醸造所が存在している。醸造責任者のヴァレリー・デ・パトリスさんいわく、年間で57万L作ることができるそう。もちろんこれ以外のビールも販売しているが、ここで作られたビールは1試合で約13000Lも消費するらしく、全体のおよそ35%だそう。その多くをハーフタイム中に売りさばくのだが、普通のバーカウンターでは限界がある。

バーカウンター

その問題を可能にしたのが、ここのバーカウンターでヨーロッパ最長の全長65mもあり、ピッチの横幅とほとんど変わらない。もちろん一度にしかもたくさん押し寄せるお客相手に最長のバーカウンターだけではさばききれない。

さらにここには秘密があり、皆さんも一度はお目にしたことがあるとは思うが、あのコップの底から湧き出るビールの方式がその問題を解消した。

この構造は実にシンプルで、コップの底に穴があり、そこにはまるような形でマグネットが収まっている。これを専用のサーバーの上に置くだけでビールが湧き出し、コップを取るだけでお客に渡せる仕組みだ。バーの責任者であるラムジー・バンドゥさんいわく、このスタイルではビールは最長でも5秒間で準備ができ、従来のビールサーバーのおよそ9倍も早くなったそうだ。

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観客席の特徴

次は、観客席とスタジアムの構造について話していこう。設計の段階でもレヴィ会長はファンが盛り上がる環境つくりを心掛けたと話しているように、スタジアム内にはたくさんのスピーカーが設置されている。設計を担当した方はマーク・マーフィさんで、彼曰くスタジアムの特徴はホーム側である南スタンドで特に重要視したとのこと。

彼がイメージしたのはスタジアム全体をアンプにして観客の声援をより大きく聞こえるように意識したこと。座席を可能な限り近くに寄せ、南スタンドは単一スタンド(1階席や2階席などで分けるのではなく、すべて同じ階)で、イギリス最大の17500席(イメージはドルトムントホームのシグナル・イドゥナ・パルクだが、こちらはゴール裏全て立見席でかつ22000人も収容可能)。最大傾斜角度もイギリス基準ギリギリの35度。最前列はゴールラインからわずか5mしか離れていない。

アウェイ側からすれば非常に圧迫感を感じるスタジアムになっているはずだ。

Bluejam – Self-photographed

また、上記でも述べたように、ファンが盛り上がる環境つくりを念頭に掲げていたため、観客席の見やすさも忘れてはいない。以前まで使っていたホワイトハートレーンでは、柱によって視界を妨げられてしまう問題があった(ちなみに新国立競技場でも見えない席は存在。カスだ)。

しかしこの新しく建設されたスタジアムは、お気づきの方もいるかもしれないが屋根を支えるための柱がない。基本的にはどこかに柱があって客席を分断したりしている。

ではどのように支えているのかというと、屋根の外枠をクレーンで地上から40mの高さまで持ち上げて、それをスタジアムの外枠54か所に引っかけて支えている。イメージとしては、輪ゴムをそのまま外に引っ張ったまま上にあげているイメージだ。もちろん本物はゴムなどではなく鋼鉄の600tあり10km以上の長さがあるケーブルだ。

また屋根自体も内側と外側があって、それぞれを108か所つなぎ調整して楕円形にしている。イメージとしては自転車のホイールのように、ワイヤーで調整されており、少しでもその調整が狂うと屋根の形が崩れてしまうという非常に繊細な作業によって成り立っている。まさに職人技といったところだ。

photo by Christian Bright

ちなみに、トッテナム・ホットスパーのエンブレムはこのスタジアムでも飾られているが、今まであったものより3倍も大きく客席どこからでも見やすく設計されている。

屋根がある理由

その屋根だが、何故屋根が必要なのか考えたことはあるだろうか。観客のためを思う上では屋根は雨風や強い日差しを遮るために必要だ。しかしここはサッカー母国イングランドであり日本ではない。しっかりプレーする選手のことも考えて設計している。

もちろんプレーするピッチ上の芝生のことを考えると厳しい環境になることは間違いないが、ここにはそれを補うだけの十分な仕掛けが施されている。芝生に関しては長くなるので次回の芝生編をお楽しみに。ではピッチ以外に何を大事にしたのか。上記でも話したがスタジアム全体をアンプにするというのは、この屋根に秘密がある。この少しの屋根があるおかげで、観客の大声援が外へ逃げることなく、跳ね返ることにより声援を増幅させている。それがこの屋根の狙いだ。

簡単な実験を紹介していたが、屋根がないと音の大きさは98.4デシベルだったのに対して屋根があると107.7デシベル。音の大きさデシベルというのの大きさの違いがどれほどかイメージしにくいだろうが、10デシベル違うと3倍も大きく聞こえるようになる。少しの屋根があることによって観客の声援が3倍も大きく聞こえるというのは、選手にとってとても大きな力になるはずだ。これがプレイヤーも観客もどちらも大事にするスタジアムつくりといえるだろう。

観客のための設計と話したが、客席だけでなく、南スタンドを支える柱にもひと工夫が施されており、わずか2本の柱が地面から伸びているだけになっている。もちろんその支えている部分は枝分かれした木の枝のようになっており、それによってスタンドを支えている。

ではなぜこのような構造にしたのか。理由は2つ。1つは客席までのエントランスを柱がないことにより広く見せることができ、より明るくオープンに感じてもらえるように。そしてもう1つは下記でご紹介するが、芝生のためである。

このスタジアムの最大の特徴といえばアメフトとサッカーを使うために、天然芝のピッチ下からアメフト用の人工芝仕様に変更可能なことだろう。

LONDON,ENGLAND – DECEMBER 16: A general view inside the new stadium during the Tottenham Hotspur New Stadium Fan Event on December 15, 2018 in London,United Kingdom. (Photo by Tottenham Hotspur FC/Tottenham Hotspur FC via Getty Images)
photo By Josh Fordham

アメリカンフットボール

この二刀流ともいえるスタジアムは、ピッチだけでなくロッカールームまでもが二刀流となっている。もしかしたらアマゾンプライムにあるAll or Nothingで観たことがある方もいるかもしれないが、普段スパーズの選手たちが利用するのはサッカー用のロッカールームで、こちらももちろん十分に広いが、アメフト用に設計されたロッカールームは、その選手の体格や登録人数などを考慮して何倍も広くしている。現在は新型コロナウイルスの影響で普段使用しているロッカールームではなくアメフト用のロッカールームをスパーズの選手たちは利用している。

そして、二刀流のもうひとつは、日本の札幌ドームのように天然芝のピッチが動くことによってサッカー以外の競技ができる点である。札幌ドームではピッチは外に出されるが、トッテナム・ホットスパースタジアムではどこへ行くのか。このピッチは駐車場へ3分割されて移動するのだ。なぜ3分割なのか。勘の鋭い方はお気づきかもしれないが、駐車場のある位置は南スタンド下であり、ここに収容するには2本の柱を避ける必要があり、それが3分割する理由となっている。

動かすときは、まずおよそ1万tあるピッチを横方向に1.5m動かして3分割する。そして168個の車輪で南スタンド下の駐車場まで続くレールの上を毎分7mで動かしていく。そして駐車場までたどりつき収納されるという仕組みになっている。しかし気になった人がいるかもしれないが、生き物である芝生を駐車場に収納しても良いものなのか。

Tottenham’s grass pitch slides away in three sections to make way for the synthetic NFL pitch
TOTTENHAM HOTSPUR FC/GETTY IMAGES

まとめると、ビールを作ることができ、その観客に素早くたくさんの量を提供でき、観客の声援は3倍に増加し選手の力を最大限に発揮させる。そしてピッチ上でもサッカーだけでなくアメフトもできるようにして収益を最大化。たくさんの観客を取り込むことを可能にしたこの新しいスタジアムは、選手と観客にスタジアムの在り方を変えたといっていいだろう。今回はそのスタジアムの外観や内部の特徴を紹介させてもらった。皆さんも気になっているかもしれない芝生に関しては、自分の専門分野であり書き出すとさらに長くなってしまいそうなので、また次回とさせていただきます。それでは、お楽しみに!!

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