近年、世界的にハイブリッドカーの普及が進み、さらには電気自動車も多く見かけるようになってきました(日本ではEVはあまり見かけませんが・・・)
芝生管理の世界においては、ヨーロッパ、特にイングランドでは多くの場所で芝刈り機が電動化していたり、芝生業界にもそのような電動化の波がやってきています。
そんな中でイングランドには、世界的に見てもかなり異質な、しかし環境にやさしいクラブが存在しています。
日本でも福島ユナイテッドさんが新スタジアムを循環型の環境問題に配慮したスタジアムにしようという流れがある中で、どうせならこのようなスタジアムを目指してほしいなと思い、今回はこのブログ記事を書かせていただきます。
このブログの作者Ikumiはアーセナルで
ブログの作者Ikumi
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今までも芝生に関しての記事をたくさん書いてきましたので、
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電動芝刈り機は実際どう?
本題に入る前に、実際に電動芝刈り機がどうなのかについては、以前ブログで書いていますので、そちらを参考になってください。私は最高に使いやすいと思っています。

福島ユナイテッドの新スタジアム設計の思想
さて、本題の福島ユナイテッドさんが目指す新スタジアムについて書いていきます。
震災と原発事故による甚大な被害からの再生を目指す福島県の歩みと完全に同調するものであるスタジアムを目指すとのことで、従来のスタジアムが、機能性や収益性を最優先事項としてきたのに対し、このクラブは「希望と再生の象徴」としてのモニュメント性を強く志向するそうです。
注目したいのは、スローガンだけではなく、建築資材の選定やエネルギーシステムのデザインといった物理的な実装レベルにまで落とし込まれている点。
福島県産の木材を使用し、地域住民が建設に参加し、地域の自然エネルギーで稼働するスタジアムを目指しているとのこと。
福島ユナイテッドさんの新スタジアム構想において「日本初の完全木造スタジアム」および「世界初の循環型木造スタジアム」を目指すという建築計画は個人的に最も気になるところ。
腐食や耐用年数等は差し置いて、どのように取り組んでいくのか、本当にできるのかは、楽しみの1つ。
この点においては、伊勢神宮に代表される「式年遷宮」から深いインスピレーションを得ているそうで、式年遷宮の意味である20年ごとに社殿を造り替えることで、建物の清浄さを保つとともに、宮大工の技術を次世代へ継承し、木材という資源を循環させるシステムを、この新スタジアムでも取り入れたいとのこと。
費用は多くかかりそうですが、自分たちで電気を賄うことができる持続可能なスタジアムにすることができるのであれば、多少食費用が高くついたとしても、世界にアピールできるスタジアムになることは間違いないでしょう。

肝心のエネルギーはどのように確保するのか?
調べてみたところ、消費エネルギーの100%以上を敷地内で生成された再生可能エネルギーで賄うことを理想と掲げています。
屋根や敷地内に高効率な太陽光発電パネルを設置し、さらに蓄電システムを併用することで、夜間の試合開催時も含めた完全なエネルギー自給自足を目指し、これにより、災害時には地域の防災拠点としての機能も果たすことが可能にするとのこと。
水に関しては、巨大な屋根面積を利用して雨水を効率的に集水し、高度な濾過システムを経て、ピッチの散水、トイレの洗浄水、さらにはスタジアム内の清掃用水として循環利用するシステムが計画されているそうです。
収益化できるのか?周辺設備は?
私が個人的に心配するのは、この仕組みで収益化ができるのか否か。
周辺にはホテルや温泉施設、さらには農業などが可能な敷地も用意して、試合日以外にもスタジアム、その周辺を活用できるように計画しているそうです。
農業とサッカーに関しては、以前のブログで私の考えを書かせていただいていますので、そちらもぜひ参考になってください。

私の考えるこの計画の課題と解決策
この計画を見ていて感じたのは、芝生に対してどのようなアプローチをするのかまだ不明な点。
例えば、屋根に太陽光パネルを付ける案は、エネルギーを確保するという面で非常に重要な要素ではあるものの、芝生においては少々厄介な存在になるかもしれません。
多くの屋根のあるスタジアムでは、少しでも光が透過してピッチに差し込むように、透明な資材を使っています。この部分を減らすともなれば、芝生管理はかなりシビアなものになるでしょう。

そして芝生管理の面においては、果たしてそれだけの電力で賄えるのかどうか。
多くの日本のスタジアムでは、屋根があることで光が芝生に差し込まないため、基本的にグローイングライトを用いて補光して成長を手助けしています。グローライトの詳しい説明は、以前のブログで書いています。

今でこそLEDのおかげで、光自体はかなり電力の節約ができていますが、熱源を使う場合の電力は高くなります。
それを使う場合、果たして電力が賄えるのかどうか?

もしスタジアムの収益ばかりに目が行き、肝心のピッチコンディションが悪いということにならないことを祈ります。
いったい何のためのスタジアムなのか、選手や利用者が快適にプレーしてこそのスタジアムですから、その点をはき違えないようにしていただきたく思います。
解決策は?
解決策として、私が素人ながらに考えるのは、地熱の活用です。
温泉をスタジアム周辺で、もし見つけることができるのであれば、豊富な地熱資源も見つけやすそうな気がします。
その地熱を上手く活用すれば、冬場多少寒い時期でも、芝生の下にアンダーソイルヒーティングとして地温を確保し、冬場における芝生の生育環境を整えることもできるかもしれません。
この分野は専門ではありませんが、スタジアムの建設地を探すにあたって、地質調査等は行うでしょうから、幸運を祈ります。
目指すならフォレストグリーンローバーズのようなクラブに
フォレストグリーンローバーズ、聞いたことがある人は少ないかもしれません。
イギリスのグロスター郡ネイルズワースという人口数千人の小さな町を拠点とするこのクラブは、国際連合から世界初のカーボンニュートラル認証を受けたスポーツクラブであり、FIFAから「世界で最も環境に優しいフットボールクラブ」と評されています。
クラブの歴史はここでは割愛しますが、彼らのホームスタジアムやその関連施設は全て再生可能エネルギーによって稼働しています。
供給される電力は風力と太陽光由来であり、ガスについても「グリーンガス」と呼ばれる、草を原料とした嫌気性発酵によって生成されるバイオメタンガスを使用。
これによって、スタジアム運営に伴うスコープ1(直接排出)およびスコープ2(エネルギー起源の間接排出)の温室効果ガス排出量は実質ゼロに抑えています。
ピッチ管理はどうなっている?
気になるのは、果たしてピッチ、芝生の管理がそれで可能なのかどうか。
フォレストグリーンローバーズさんは、化学肥料、除草剤、殺菌剤等を一切使用しないオーガニックな手法で管理しているそうです。
イングランド国内でも、多くのクラブが実はこのような取り組みを行ってて、例えば私のいるアーセナルでは、殺菌剤の代わりにオゾンによる殺菌であったり、UVライトの照射による病原菌等の抑制などを行っています。

また、線虫という土壌中に潜む虫に関しても、彼らはニンニクを嫌うので、ニンニクをピッチに撒いたりしてエミレーツスタジアムでも対応しているなど、実は意外とオーガニックな手法を取り入れています。ちなみにニンニクを撒いた後のスタジアムは、チャーハンが食べたくなるようなにおいがします。

芝刈り機は上記でも書いたように、電動化の物を使用していますが、私が気になったのは、GPSの自動ロボットで常に芝刈りをしているという点。
説明によると、頻繁に微細な刈り込みを行うことで、刈り取られた芝がそのまま土壌に落ち、分解されて天然の肥料となる循環システムを作り出している。これにより、外部からの肥料投入量を削減できる。とあります。
ですが、葉っぱが分解するにはイギリスの気温や天気の関係で、かなり遅くなるのではないかと思いますし、蓄積していく量以上に分解するスピードが上回るようには思えません。
特に庭なら良いかもしれませんが、選手が使うピッチとなれば、サッチ層が堆積して、スリップの原因になるような気もするので、そこが非常に気になるところ。
また、トラクター等の重機を使用しないということですが、それでも土壌が固まっていき、土壌中が嫌気的な条件になってしまうのは避けられないでしょう。
さすがにエアレーション作業なしでは微生物も呼吸ができませんし、葉っぱの分解スピードも遅くなると思うので、この辺りも非常に気になります。
私が福島ユナイテッドさんの新スタジアムに期待したいこと
施設の電力やエネルギーに関しては、再生可能エネルギーで賄える可能性がある中で、こだわるのであればいっそのことピッチの管理に関しても、電気の物を中心にしたり、オーガニックな管理手法にするなどこだわってほしいところ。
スタジアムのサイズもおそらく同じくらいの規模になるでしょうし、同じようなコンセプトを掲げるクラブのスタジアムですから、福島ユナイテッドさんにとっても、フォレストグリーンローバーズさんの事例は参考になるはず。
私もイギリス国内では1度訪問してみたいスタジアムの1つでしたので、近いうちにコンタクトを取って、伺いたいなと思っています。


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