私は普段はアーセナルグラウンズパーソンとして、そして仕事においても日本国内では芝生管理者として生きてきましたが、大学では農学部を専攻していたことや、大学在学中は畑を借りて農業をしていた人間ですので、日本の農業には多少なりとも関心を寄せています。
そして現在の日本国内の農業の現状については、少々いかがなものかと感じています。
農業、食料が無ければ国は滅びると思いますし、今の時点では関税の問題などで国際情勢も不安定な中で、自国で可能な限り食料を賄える手段を増やしておくことは必要でしょう。
常々私も何かできることは無いかと考えていますが、1つ、アーセナルに来てから思ったことは、意外とサッカーと農業は相性が良いのでは?と感じた点。
そのあたりを今回は書いていきたいなと思います。
このブログの作者Ikumiはアーセナルで
ブログの作者Ikumiより
グラウンズパーソン(グラウンドキーパー)として働いています。
今までも芝生に関しての記事をたくさん書いてきましたので、
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アーセナルトレーニングセンターで何を見たか?
アーセナルトレーニングセンターでは、まず最初に施設の大きさに驚きました。建物もそうですが、ピッチの数など、日本国内ではまず見られないような規模感、これらは想像以上なものです。
ただ、私が1番驚いたポイントとしては、施設の裏側に広大な農地があること。

作物などは育てていませんが、その場所に刈り取った芝生を捨てたり、リノベーションして出てきた土を捨てたりして、そして蓄積して来たら耕運して土壌にすき込んでいます。
これは衝撃でした。そもそもリノベーション(いわゆる芝生の張替え)の時や芝生管理において、出てきた土や芝生を捨てるのは意外と費用が掛かる中で、土壌にすき込んでしまえば廃棄料はゼロ。
さらに芝生は有機物ですから分解されれば多少なりとも養分にはなりますし、リノベーションされた土に関しては、1年中アーセナルトレーニングセンターのピッチコンディションを支えてきた土ですから栄養満点。


これ、農業に使えると思いませんか?
さらには機械に関しても、私の身長以上に大きいタイヤのトラクターがあったり、農業をするには申し分ないサイズのものがあり、そして芝生管理者の多くはトラクターなどの機械も扱うことができるので、農業に向いているのでは?


ということで、今回のブログを書いています。
提案:日本のサッカークラブの練習場に1つ農地を
サッカークラブに1つ農地があっては面白いのではないでしょうか?
今は農業も企業化しているところもありますし、クラブが運営することに関しては問題はないでしょう。
ここからは私の考えた理由を書いていきます。
①経費削減
まず1つは芝生管理者目線からで、経費削減ができること。
先ほどもお伝えしましたように、刈り取った芝生や出てきた土の処分費は、意外とお金が必要です。
農地があればそこにすき込んでいくことは可能ですし、それが逆に作物の栄養分になったりと、有効活用が出来るように思います。
②トラクターなどの機械の有効活用
次に芝生管理をするうえで、トラクターなどの機械は、基本的にどこのグラウンドにもあります。
そのため芝生管理者は、トラクターの扱いに慣れている方が多いです。
といっても、1年中毎日稼働するかと言えばそういうわけでもなく、ピークの時は限られているのも事実。
そういった機械の有効活用が出来そうなのも、今回サッカー場に1つ農地があっても面白いのでは?と思った次第です。
③クラブにとっての地域貢献
サッカークラブが農業を行うことによって、地域貢献もできると思います。
地域に根付いた作物を栽培して、特産品をアピールすることも可能です。
そして収穫物が余ったり、売れ残ったりした場合も、地元の学校給食や福祉施設への寄付として社会貢献に繋げられます。
これはSDGs文脈でも評価されやすく、クラブのCSR(企業の社会的責任)活動のひとつとしてPRもできます。
④クラブ名のブランドを使える
これは大きなポイントのように思えます。
例えば、個人が農業に参入する場合、土地の確保や機械の確保などもそうですが、販売経路をどうするのか、このあたりが結構難しくなってくると思います。
ですがサッカークラブであれば、自分たちの名前をフルに生かした販売経路を作成できます。すでに自分たちでネット販売などを手掛けているクラブがほとんどですから。
みなさんどうでしょう?自分の好きなクラブの作物、欲しくなりませんか?
実はアーセナルトレーニングセンターでは、グラウンドチームがひそかにハチミツを作っています。


これ、アーセナルのサポーターの皆さんは、欲しくなりませんかね?笑
残念ながら、このハチミツはアーセナルトレーニングセンターのクラブハウスでのみいただくことができ、販売されることは今のところありません。
ちなみにおいしいです。メイプルシロップ派の私も、アーセナルハチミツいただきます。
え?私が作っているのか?私は蜂が苦手なので、食べる専門ですね(笑)
もう少し言うと、公表されていませんが、意外と他のイングランドのクラブもハチミツ作っています。
このように、自分の好きなクラブの物なら積極的に購入したいと思う人がいるとは思います。上手くできれば、クラブにとっても立派な収益源になりそうです。
⑤シーズンオフの体験イベント・マネタイズ
Jリーグのオフシーズンや代表ウィークなど、活動が少ない時期に
- 「クラブ農園体験ツアー」
- 「選手と田植え・収穫体験」
- 「農園BBQフェス」
など、ファンとの触れ合いイベントを仕掛ける舞台として農地を活用できます。
体験価値も高く、逆に地方クラブにとっては都市クラブにはない観光資源にもなりうる要素かと思いました。
⑥食育・栄養教育の場
育てた野菜や米を自分たちで食べることは、食に対する意識を高める良いきっかけになります。
若手選手やユースにも「自分の体を作る食材がどう育っているのか」を体験させることは、アスリート教育の一環として有効な気がします。
当然ながら選手たちが毎日関わることはできませんが、自分たちのクラブが作ったものをいただくことは、少なからず考え方に変化があるのではないでしょうか?
学校教育の一環としても視野に入ると思います。
⑦スポンサー連携・企業との新たなタイアップ
クラブが農業に取り組むことで、新しいタイプのスポンサーが参入しやすくなると思います。
たとえば:
- 農業機械メーカー(クボタやヤンマーなど)
- 種苗・肥料メーカー
- 食品会社(レトルトカレーなどでコラボ)
スポーツ×アグリというコンセプトで、新たな事業展開・PR活動が可能。
⑧ オフの活動・セカンドキャリアへのヒント
特に引退後の選手にとっては、農業がセカンドキャリアの選択肢になることもあるのではないでしょうか?
現役時代に経験があることで、「農とスポーツ」の融合事業に進む道も見えてくるかもしれません。
私も常々、選手の誰か1人くらい引退してから芝生管理者になってくれる人がいても良いのではないかなー、なんていう風に考えていますので、これがセカンドキャリアのヒントになればいいと思います。
考えうるデメリット
当然メリットもあればデメリットもある。
ここからはデメリットの部分を掘り下げていきましょう。
①初期投資が必要
当然ながら農業を行うにあたって、土地や機械が必要なのは間違いないでしょう。
ここが、本業はあくまでもサッカー、という点で、なかなか投資が難しいところかと思います。
② 人的リソースの不足
本業はサッカークラブ運営なので、農業にまでマンパワーを割けない可能性があります。
- 専門の農業スタッフを雇うコストが必要
- 選手やスタッフが関わるにも時間・体力的な制限あり
- 慣れない運営で作物がうまく育たないリスクも
→ クラブの運営が農業に引っ張られすぎると、本末転倒になる危険もあります。ここはしっかり考えないといけません。
③ 天候・自然災害のリスク
農業は天候に左右されやすい産業です。
台風、大雨、猛暑などで作物が全滅することもあり得ます。
→ 安定した収穫や収益を期待するのは難しく、リスクマネジメントが必要。
④ 継続性の難しさ
1度始めたら、やりっぱなしでは済まないのが農業。
- 毎年の栽培計画
- 土壌管理
- 病害虫対策
など、継続的に運用する体制づくりが求められます。
→ 最初は話題性があっても、「続かない取り組み」になってしまうと逆に信頼を損ねるリスクがあります。
⑤ 選手・スタッフへの負担増
とくに「農作業をトレーニングやリフレッシュに」っていう発想は良いのですが、
- 無理に義務感を持たせると逆効果になる
- トレーニング後の体に農作業が負担になることもある
→ あくまで自由参加型やイベント的運用が現実的なところ。
⑥農業スキルの不足による失敗リスク
プロの農家ではないクラブが栽培に手を出すと、失敗も多くなる可能性があります。
- 病害虫の対応ができない
- 品質が安定しない
- 売れる品種が育てられない
→ 農業のプロとの連携が不可欠になるでしょう。
逆に言えば、クラブが地域の雇用を生むチャンスとも言えます。
⑦ サポーターからの温度差・誤解
「サッカーに集中しろ」「余計なことしてるヒマない」っていう声も、少なからず出る可能性はあります。
→ 取り組みの意図や目的をしっかり発信し、“クラブの本質を損なわない範囲”での展開が大事です。
まとめ
今挙げたデメリットの解決策としては・・・
デメリット | 対策の方向性 |
---|---|
初期投資が必要 | 長期的コスト比較/補助金活用 |
人的リソース不足 | 外部委託や地域との連携 |
天候リスク | リスク分散・ハウス栽培検討 |
継続が大変 | 小規模からスタート/パートナーシップ |
負担増になる可能性 | 無理せずオプションとして導入 |
スキル不足 | 地元農家やJAとの協業 |
サポーターの温度差 | 丁寧な広報・ファン参加型企画 |
こんな感じでしょうか?
私が思ったのは、仮に農地があった場合、農業をやってみたいという若い方に農地を貸すというのもアリかと思います。
作物の栽培部分は、農地を借りた方が一任することで、クラブサイドの人件費がかかる必要は無くなりますし、クラブとしてはこの方の作物を販売する場合は、クラブ名の使用を許可するなどのパートナーシップ契約が結べると実現に1歩近づくと思います。
機械もクラブが芝生管理に使うものは多少なりとも持っていますので、共有することはできるでしょう。
貸す方と借りる方の契約は複雑なものになりそうではありますが。
個人的な思い
私個人としては、サッカーも好きですし、農業も好きなので、こういった取り組みが増えてきたら、例えイギリスにいたとしても積極的に携わりたいと思います。
日本のクラブですでに取り組んでいるところがあるというのも聞いています。
日本の農業は、正直考えれば考えるほど未来が見えなくなってきているので、どうにかならないものかといつも考えています。
こういった農業がサッカーが関わることが出来るなら、私としては非常にうれしく思います。
農業にも様々な制約があるのも事実なので、難しいことだとは思ってはいますが・・・
何か今後の参考になれば、と思い書かせていただきました。ご参考までに。
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