2025年12月、いよいよワールドカップの組み合わせが決まった。
まだプレーオフがある関係で、出場国が完全に決まっていないものの、そのプレーオフのチームも含めて今回は合計12グループ、48か国が参加し全104試合が行われる史上初のフォーマットで本大会が6月から開催。
レギュレーションや大会のルールなどは、きっと多くのサッカージャーナリストの皆さんや有識者の方々がまとめてくださることでしょう。私はここでは何も触れません。
私が触れるのは、世界中に書く人もなかなかいないであろう「ワールドカップの試合会場の芝生」とかいう希少なところ。
実際に2025年夏に行われた、クラブワールドカップにおける芝生の評価はどうだったのかも含め、試合会場の芝生のおさらいと、日本代表の試合会場のピッチコンディションとピッチを味方につけるために、優勝するためにどうすればいいのかを芝生の目線から私は書いていきたいと思います。
とりあえず組み合わせはこんな感じです。

正直に芝生のことを言うと、会場によってはちょっとまずい予感がします。その理由も書いていきます。
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今までも芝生に関しての記事をたくさん書いてきましたので、
気になる方々はぜひ過去の記事を遡ってみてください。
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- ワールドカップの開催国が決まってから、FIFAは芝生に対して何をしてきたのか?
- 2026年FIFAワールドカップの芝生における課題は何か?
- 2025年クラブワールドカップの芝生の評価は?
- 2026年ワールドカップの芝生が、大会全体と選手へ与えるプレーへの影響は?
- 2026年北中米ワールドカップ全てのスタジアムの芝生情報
- 気になる日本の試合会場は?
- 大会を通して優勝するためには?
- 試合会場でピッチコンディションが全く異なる点が優勝に大きく影響する?
- 日本がワールドカップを単独開催できる道はある?
- 2026年ワールドカップ、村井郁允は大会に行くのか?
- まとめ
ワールドカップの開催国が決まってから、FIFAは芝生に対して何をしてきたのか?
まずは、FIFAと芝生について書いていきます。
以前のブログで多くこのこと書いていますが、ここでは自分のブログを引用して書かせていただきます。

意外と知られていないことですが、選手の足元を支える芝生において、実は2018年6月にアメリカ、カナダ、メキシコの3か国で開催されることが決定した年にFIFAはすぐに芝生の研究をスタートさせようと試みました。
内容としては、ブログを書いている現在の2025年に至るまで、それぞれのスタジアムや練習場に合う芝生の品種は何か、そしてどういった管理手法がそのスタジアムや練習場にとって最適なのかといったことをFIFAは研究し続けていました。
2022年カタールワールドカップの時にも、砂漠地帯で芝生を生育させるうえでどういった課題があるのかといった研究を、ドーハで行われています。
このように、FIFAは芝生に対して真剣に考え、いかに選手たちに最高のプレーをしてもらうかを考えています。(試合数が多すぎで選手に負荷がかかっていますよ、という指摘はNG)
具体的にどういった研究しているのか?
では、芝生の研究とは、いったいどのようなことを行っていたのか。このあたりも書いていきます。
ちなみに研究には、テネシー大学とミシガン州立大学の芝生の専門家が研究に協力されたそうです。
どの芝生の品種が各スタジアムに適しているのか
まず芝生の品種を選定するのにあたって、その環境にあったものを選ぶ必要があります。
屋内の場合は、グローライトを使用したときとそれ以外での生育の差、気温、日照時間、それらによって生育にどのような変化があるのか。
一言に夏芝、冬芝と言っても、その中に様々な品種が存在し、日陰に強いものもあれば、暑さに強いものもあり、その中から最適なものを選び出す必要があります。
今回の北中米における大会は、様々な土地で行われるので、冷涼な地域もあれば、暑い地域もあります。
ですので、品種選びは極めて重要。
特殊環境下での生育の違い
そしてコンクリート上での生育の違いや、プラスチック(Permavoid)の上における生育の違い、こういったことも今回の大会に向けて研究しました。
のちほど試合会場のことについて触れますが、人工芝が使用されているスタジアムを天然芝に変えて試合を行うところもあり、ここでは、さすがに地盤の改良までを行うほどの時間はないため、コンクリート上や、プラスチックの上に芝生を持ってくる必要があり、それらの芝生の下の状態が、生育にどのような影響を及ぼすのか、これらも検討する必要がありました。
圃場の芝生の生育
そしてもちろん、人工芝が使用されているスタジアムでは、天然芝を持ってくる必要があるため、その輸送手段であったり、どのハイブリッドターフを使用するのか、どのように設置するのか、散水頻度はどうするのかなどの管理手法も一緒に検討します。
天然芝を生育するにあたって、どの地域で育てられた天然芝が最も良いのか、またサッカーピッチ1面分の広大な面積の芝生を必要とするので、圃場にもトップレベルのグラウンズパーソンが必要となり、その圃場における芝生のクオリティも求められます。
2026年FIFAワールドカップの芝生における課題は何か?
開催が決定してからアメリカに拠点を構えて研究を行ってきていますが、いったいどんな課題があったのか?
もともと人工芝のピッチだったところがある
今回試合が行われるスタジアムは全部で16会場。しかしその中でも8つはNFL等で使用される多目的な人工芝のピッチを通常時使用していて、そのうちの3つのスタジアムに関しては、今まで人工芝を撤去して天然芝のピッチを敷き詰めて試合を行ったことがないとのことです。
そもそもなぜサッカー、FIFAが天然芝にこだわるのかというと・・・
- サッカーのルーツは土に根ざしているということで、イングランドの芝生文化の広がりで始まり、その後何世紀にもわたって天然芝が標準だったことから、FIFAは、ワールドカップをそのルーツに忠実に保つことで、この伝統を維持しています。
- 選手の負荷軽減:ある調査機関によると、天然芝はインパクト、スライド、転倒時にプレーヤーの筋骨格系への負担を軽減する柔らかい表面を人工芝よりも提供しているとのことで。これにより、選手のケガのリスクが軽減され、プレー中のダメージが軽減されます。
- 熱を下げる:芝生は人工芝よりも自然であり、なおかつ人工芝のような熱がこもることがないため、特に日当たりの良い激しいプレー中には人工芝よりも涼しいまま。涼しい状況であれば、プレイヤーの疲労を防ぎ、高品質のプレイを確保するのに役立ちます。夏の人工芝の上に立ったことがある方は分かると思います。
- サステナビリティ:FIFAはサステナビリティと環境への配慮を重視しており、持続可能な方法で管理された天然芝のピッチは、合成繊維にはない方法で生態系をサポートします。例えば人工芝の場合、ゴムチップが環境や人体に悪影響を与えるといった話や、マイクロプラスチック問題などもあるためです。
というように、FIFAの公式大会は必ず天然芝でなければいけません。
このサステイナビリティという点は、個人的には人工芝を撤去して天然芝にして、そして大会後に人工芝に戻すというのはどうなのか?という点には疑問しかありません。
おっと、、、あまり言いすぎると怒られそうなので辞めます。
ここで必ずご指摘があるため、一応補足しておきますと、ハイブリッドターフ技術はFIFAも公認しており、5%までであれば人工芝繊維の補強が許されています。
ハイブリッドターフに関しては、以前のブログで書かせていただいていますので、ご覧ください。

というように、天然芝にしたことのないスタジアムや、普段天然芝ではないスタジアムが多く活用されるこの大会は、課題が山済み。他にも様々な課題があります。
5つが完全ドーム型のスタジアムがある
人工芝のスタジアムの課題は、天然芝での利用をほとんど想定していないこと。
NFLのゲームを見たことがある方はなんとなくお分かりでしょうが、屋根がやたらデカかったり、もはや日光が入るのか入らないのか、そして完全なドーム型になっているスタジアムがあったりします。
この環境下で天然芝を育てるのは至難の業。日本国内の屋根付きスタジアムの天然芝管理が苦戦しているニュースなどはたびたび目にしている方もいらっしゃるでしょうが、まさにそれと同じくらい、もしくはそれ以上に大変です。
会場によって気候が異なる点
北はバンクーバー、南はメキシコシティと南北に広く行われるこのワールドカップは、当然ながら気候が大きく異なるため、先ほども書いたように芝生の品種も考えなければなりません
こちらの地図はWikipediaさんから。このように16会場が使用されることになっています。

もともと天然芝で維持してきたスタジアムであれば、開催時期にどのような管理手法を行えばよいのかは分かるはず。
しかし人工芝だったところの場合は話は別。
例えばロサンゼルスのSoFi Stadium。調べたところによるとロサンゼルスはこの季節30℃に達し、そして湿度もかなり高いとか。

このスタジアムはマトリックスターフという人工芝を普段使用していますが、当然ワールドカップにおいて使用はNG。天然芝に変更します。
ここで芝生の品種を何にするのかは大きな課題。気温的にはバミューダグラス、いわゆる夏芝を使用するのがセオリーですが、風通しが悪く完全に囲まれている環境であれば日当たりが悪く、病気も発生しやすいでしょうし、バミューダの生育にはちょっとコツがいるかも。
グローライトを使用するにしても、ライトの光量ではバミューダの要求する光量を満たすことが出来ないため、それなら冬芝にするのか?
しかし冬芝でこの湿度と気温を乗り越えるのも難しい。
当然人工芝だったので、地温コントロールシステムも導入されておらず、ライトくらいであれば導入可能でも、地温コントロールまでこの大会だけのためにわざわざ導入するかどうか疑問。
一応今のところ冬芝系統で大会に挑むところが多いといわれています。もちろんハイブリッドターフのカーペットタイプも導入予定。
実際に2025年のクラブワールドカップにはそのテストも兼ねてカーペットタイプのハイブリッドターフを使用して実証したとのことで、本番はどうなるのか気になるところ。
人工芝だったところは下がコンクリートである点
人工芝が敷いてある下は、当然ながらコンクリートです。
ということは、天然芝をこのコンクリートの上に持ってくる必要がり、そこで生育させなければなりません。
課題点としては、排水性の課題、そしてクッション性をどうするのか。
実は2024年夏にコパアメリカがUSAで開催されていましたが、そこではあるスタジアムにおいてクッション性が全くなく、とあるGKから災害級とピッチコンディションに文句を言われてしまいました。
排水性に関しては、Permavoidと呼ばれるものを芝生の下に敷き詰め、空気と根の成長を手助けするとか。
クッション性に関しては、通常は30cm以上ある土壌層が、重量制限などもありコンクリート上には10cm-15cmしか土壌層を造れないので、それがクッション性を生まない可能性が高いでしょう。
もちろん他にも様々ありますが、代表的なところはこれくらいです。
2025年クラブワールドカップの芝生の評価は?
さて、少し過去を遡りますと、2025年夏にはクラブワールドカップが行われていました。この大会では12会場のUSA国内(ややこしいのでこう表現。カナダやメキシコでは試合無し)でのみ行われた大会です。
この大会に関しては、芝生のクオリティの実証実験的な意味合いも込められていました。
結論から申し上げますと、評価は極端に二極化しています。
二極化とはどういう意味か?
評価が二極化したというのは、クオリティの高いピッチを提供したスタジアムは最高であると賞賛されたのに対して、そうではないスタジアムでは史上最悪とまで評されたほど。
どういうことなのか。メジャーリーグサッカー(MLS)専用スタジアムやローズボウル(2026ワールドカップでは使用しません)のような昔からの伝統的な天然芝のスタジアムが「完璧」「最高品質」と絶賛された一方で、NFLとの共用スタジアムにおいて実施された「人工芝撤去後の上への天然芝敷設(レイ・アンド・プレイ方式と呼びます)」は、ボール挙動の不規則性、表面が過度に硬い、芝の根付き不足による不安定さといった深刻な欠陥を露呈したということ。
つまり、従来天然芝だったところは最高の評価で、人工芝から天然芝にしたところは最悪という評価でした。
どんな批判があったのか?
批判の内容を書いていきます。
ルイス・エンリケの評価
パリ・サンジェルマンを率いるルイス・エンリケ監督は、シアトルのルーメン・フィールド(Lumen Field)で行われた試合後、彼は次のように述べています。
「ボールがまるでウサギのように跳ね回る。バスケットボールのコートに穴が開いているようなものだ。NBAのコートがこのような状態であることは想像できないだろうが、我々はそこでプレーさせられている。」
このうさぎのように跳ねるというのは、下地、つまり芝生の下の状態によって左右されたと考えていいでしょう。
パリの試合が行われていたルーメン・フィールドや、他のメットライフ・スタジアムなどでは、コンクリートやアスファルト、あるいは既存の硬いものの上に直接、保護マットやプラスチック、そして砂と天然芝の層が置かれます。
もともと天然芝だったピッチであれば、数十センチの砂や土壌層がクッションとなり衝撃を吸収しますが、今回のような仮設ピッチでは、その厚みがに限られるため、ボールの落下エネルギーが吸収されず、過剰な反発力を生むことから、「うさぎのように跳ねる」という表現をされたのだと思います。
他にも要因としては、持ち込まれた芝は、設置から試合までの期間が短く(クラブワールドカップでは一部で11日間程度と改善が試みられたものの)、根が下層に定着していないことにより、芝生自体が浮き上がったり、ボールインパクトの瞬間に微妙にずれたりすることで、予測不能なバウンドが発生するケースがあります。
南米からの意見
パルメイラスのアベル・フェレイラ監督や、ボタフォゴの選手たちは、ピッチの視覚的そして感覚的な「継ぎ接ぎ感」を批判。
メットライフ・スタジアムでの決勝戦やグループリーグにおいて、芝のロール同士の継ぎ目が肉眼ではっきり確認できる状態であったことが報告されています。
これらの影響は次の通り。
- プレーへの影響: ボールが継ぎ目の上を通るたびに軌道が変わるため、ドリブルやロングパスの精度が落ちる。
- 安全上の懸念: 選手が継ぎ目に足を取られて転倒するリスクがある。
また、南米勢が自国と比較し、ブラジルでは近年、アリアンツ・パルケ(パルメイラス本拠地)のように高品質な人工芝が普及しており、フェレイラ監督は「低品質な天然芝よりは、高品質な人工芝の方がマシだ」という趣旨の発言をし、米国の仮設天然芝が、ブラジルの人工芝の水準にも達していないことを示唆しました。個人的には人工芝の方がマシと言われるのは、最も屈辱です。
ジュード・ベリンガムの評価
レアル・マドリード所属のジュード・ベリンガムは、大会を通じて最も率直にピッチへの懸念を表明した選手の1人。
シャーロットのバンク・オブ・アメリカ・スタジアム(2026年ワールドカップでは使用しない)およびマイアミのハードロック・スタジアムでの経験を踏まえ、彼は以下のように述べています。
「ピッチの状態は全く良くない。ボールが止まってしまうし、変な跳ね方をする。それ以上に問題なのは、膝への負担だ。表面が硬すぎて、走るたびに衝撃が直に来る。来年(2026年W杯)に向けて誰かが真剣に考え直してくれることを願う。」
硬い場所での高強度ランニングや急停止は、足首、膝、股関節への反力を増大させ、疲労の蓄積が早まり、筋肉疲労や疲労骨折等のリスクが高まります。
そして怖いのは、表面は硬いが芝の葉は密集している場合。
スパイクのスタッドが刺さったまま抜けなくなる現象が起きやすくなります。
これに水平方向の力が加わると、足が地面に固定されたまま体が回転し、前十字靭帯(ACL)や骨折などの重篤な損傷を招く危険性が。クラブワールドカップではその象徴的な出来事がありましたよね?
ジャマル・ムシアラの負傷事故と責任論
ムシアラの負傷も、先ほどのメカニズムが関与している可能性が高いです。
今大会におけるピッチ問題の深刻さを最も悲劇的な形で象徴してしまいかねない出来事が、準々決勝バイエルン・ミュンヘン対PSG戦におけるジャマル・ムシアラの負傷です。
試合映像を観ていない人は、ご自身で調べて勇気を持って観てください。
一応負傷した時の説明しておきますと、試合はアトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで行われたバイエルン・ミュンヘンとパリ・サンジェルマンのゲーム。
このスタジアムはドーム型であり、人工芝の上に仮設の天然芝を敷設して開催。
試合後半早々、ムシアラはペナルティエリア内でボールを追走中、PSGのGKジャンルイジ・ドンナルンマと交錯し負傷。映像分析および目撃証言によると、以下のプロセスで負傷が発生したとされています。
- ムシアラが左足で踏み込む。
- スパイクが芝に深く食い込み、抜けなくなる。
- ドンナルンマの身体がムシアラの脚に接触し、外力を加える。
- 足が固定された状態で膝と足首に過度なねじれが生じ、腓骨骨折および複数個所靭帯損傷に至るとされています。
ドンナルンマへの批判
バイエルンの守護神マヌエル・ノイアーは、当時のパリ・サンジェルマンの守護神、ドンナルンマのプレーを「無謀」と批判。接触自体はファウルと判定される可能性のあるものであったとも。
ドンナルンマを擁護
一方で、コンパニ監督や中立的な解説者、ティボー・クルトワ(レアルマドリードのGK)などは、「不運な事故」であり、どうすることもできなかったと話していました。
私の意見
このケガに関しては、「芝生の影響も多少はあった」と私は見ています。
確かにGKの飛び出しは無謀であったかもしれませんが、サッカーをする人間であれば、あの場面でGKが飛び出して懸命にゴールを守ろうとする気持ちは理解できるはず。
しかし芝が適切な剪断強度を持っていれば、強い力が加わった際に芝が「ちぎれる」ことでエネルギーを逃がし、足首への負荷をもう少し軽減できた可能性があったため、重症化したのには芝生の影響も多少はあったと私は見ています。
人工芝上の仮設天然芝では不自然に強固であったり、逆にマットごとずれたりすることで、関節へのありえないダメージを許してしまったと推測されます。
ピッチに関しては、ここで改めて見直すと、なぜ天然芝なのか、というところにもう1度焦点を当ててほしいです。
芝生へのダメージが多いピッチが=完全に悪いというわけでは無く、芝生へのダメージが多い分、選手への負荷が少なくなっているという捉え方もできるのです。もちろん芝生のダメージが多すぎると、スリップやクッション性の低下など別の問題も発生しますから、この芝生の強度というのは繊細なコントロールが必要です。だからこそ、この仕事はプロフェッショナルなのです。
逆に人工芝では、チップがあれどピッチへのダメージがないため、選手への負荷が大きくなります。それが天然芝と人工芝の大きな、そして決定的な違いです。
このピッチがどのような剪断強度の数値だったのかは分かりませんが(多くのピッチでは、こういった芝生の強度、他にも表面硬度といった芝生がプレーに影響を与えるものに関してのピッチテストを実施します)、このあたりはより厳格にFIFAは見ていかなければ、2026年の本大会は、重症人が増えることになると私は今から心配です。
そして芝生を管理する者としては、選手1人1人のキャリアを大きく変えてしまうこともあるのがピッチですので、より一層気を引き締めて仕事に努めていきたいと思う出来事でもありました。
2026年ワールドカップの芝生が、大会全体と選手へ与えるプレーへの影響は?
クラブワールドカップの開催されたスタジアムは、場所によってまったく異なる評価を得ていることが分かったでしょうから、当然スタジアムごとにプレーへの影響は大きく異なると思います。どんな影響が考えられるのかをまとめました。
ボールの転がり方
まず真っ先に思いつくのが、ボールの転がり方。
人工芝を天然芝にしたところは、エンリケ監督が話したように、弾み方が変われば、転がり方も不規則になる可能性も。
本当にしっかりとした業者が行い、芝生を張らなければ、プレーに大きく影響してくるのは間違いありません。
他に個人的に気を付けた方がいいと思うのは、試合会場ごとに異なる草種を使用すること、また会場によって大きく気温が違うこともあり、それがボールの転がり方への影響も多少あるかとみています。
まず芝生の違いにおいては、例えば夏芝の場合は少し葉が硬いものが多い傾向があるのに対して、冬芝は柔らかいものが多い傾向があります(もちろん種類による。詳しい解説は省きます)。
そして少し専門的な話しをすると、ほふく茎があるものとそうでないものなど、ボールの転がり方や、踏んだ時の感触が若干異なる芝生もあるため、このあたりはプレーや選手たちの感覚に影響してきそうです。
芝生の長さにおいては、FIFAの規定で20mm-30mmというルールがありますが、草種によっては同じ長さでも、葉の密度などでボールや選手への抵抗も増えたりしますので、このあたりも要注意。
また、気温が会場によって高いところも低いところもあり、芝生の表面が乾きやすい会場と、ハーフタイムまでスリッピーなスタジアムもあるでしょう。
基本的に試合前に散水するというのは原則ですが、夏の場合は暑いためすぐに乾きます。ハーフタイムにもう1度散水しますが、ハーフタイムまでの間に乾いてしまうことも。
乾けば当然ボールの滑りが悪くなるため、よりしっかりボールに力を伝えなければいけません。
反対に乾かなければ、それだけボールの転がりも早くなるので、力のコントロールやトラップの質も大事になります。
実際に、ポルト対パルメイラス戦が行われたメットライフ・スタジアム(ニュージャージー)でも、両チームの監督と選手がピッチの乾燥とボールの走りの悪さを指摘しており、もっと水を撒くべきと話していました。ちなみにこの試合では雨が降ったのですが、フェレイラ監督は「雨の聖人に感謝したい。雨のおかげでようやく我々のゲームができるようになった」と皮肉を込めて雨に感謝していました。
このように会場によっては選手たちも芝生に合わせた技術力も試されそうで、このあたりにマッチできるのかどうかも、試合結果に大きく影響してきそうな気がします。
じゃあ試合前にたくさん散水すればという意見も出てきそうですが、逆に芝生にダメージも入りやすくなり、プレー環境が悪くなる場合もあるので、そこは会場ごとにヘッドグラウンズパーソンの頭脳が試されそうです。
ケガのしやすさ
そして私が最も気になるのは、ケガのしやすさ。
圃場からスタジアムへ天然芝を持ってきた場合、1試合だけならまだしも、8試合もやるとなれば、完全に根付いておらず、ピッチのダメージも多くなり、芝生が無くなっていき、クッション性などもなくなり、選手のケガに直結する場合も考えられます。
ベリンガムが話したように、硬いピッチで試合を続ける場合、試合数が増えれば増えるほど疲労度は増えてケガがしやすくなっていくでしょう。
そして、どれだけ芝生の下にクッション性の高いものを置いたとしても、コンクリートの上に天然芝を持ってくるだけでは、選手への負荷もそれなりにあるというのは、ベリンガムが話した通り。
このあたりはクラブワールドカップの前に私はブログで不安視していたので、的中してしまって残念です。改善願います。
試合数が多いことで蓄積した芝生のダメージによる選手への影響
今大会は48チームが参加し、全104試合が16会場で行われます。1会場当たり4試合から9試合が行われるようです。

クラブワールドカップの時点で散々な評価だったスタジアムがある中で、その大会よりも試合数が増えるスタジアムがあり、試合が進むにつれてよりケガ人が今までの大会以上に発生しやすくなるのではないかと思っています。
また、試合数を重ねていくにつれて、人工芝を天然芝にしたスタジアムでは、ピッチがボロボロになる可能性も考慮し、戦い方を柔軟に変更しなければいけない、なんていう状況になる可能性もあり、この点はしっかり見ていきたいところです。
2026年北中米ワールドカップ全てのスタジアムの芝生情報
では、すべての試合会場の芝生の情報を簡単にまとめました。あくまで芝生に関する情報で、キャパシティ等は書いていませんのでご了承ください。
使用する品種に関しては、私の予想も含めています。
先にお伝えしますと、2025年クラブワールドカップの反省を生かして、各スタジアムかなりの投資をしているようです。
メキシコ会場(既存天然芝の維持)
メキシコの3会場は伝統的に天然芝を使用していますが、ワールドカップ基準に合わせるために大規模な改修が行われています。
1. エスタディオ・アステカ (Estadio Azteca) – メキシコシティ
- 元のピッチ:天然芝(過去にハイブリッドの時期もあり)
- 2026年計画:フルリノベーション(ハイブリッド芝)
- 品種:キクユグラス (Kikuyugrass)(夏芝)のハイブリッド
- 詳細:標高約2,200mに位置するアステカは、酸素濃度が低く日射が強烈。歴史的にここでは、「キクユグラス」が使用されてきたそう(ごめんなさい、日本では一般的ではなく、名前すら聞いたことがありませんでした。勉強不足です)。2026年に向けては、スタジアム全体の大規模改修(2024年〜2026年初頭)の一環として、ピッチの土壌をすべて入れ替え、最新のハイブリッドシステムと真空換気・排水システム(サブエアシステムなどと呼ばれる。詳細は後程)を導入。これにより、2018年にNFLの試合がキャンセルされる原因となった排水不良問題を解決を目指します。
- 課題:屋根が大きいので管理が難しそうではありますが、キクユグラスが個人的に未知数なため何とも言えません。調べたところ、湿度があるところを好むとあるので、ひょっとしたら屋根があって乾燥しない環境でも上手くいくのかも?日本でも使える可能性もあるかなと思い個人的に注目なスタジアムの1つ。

2. エスタディオ・アクロン (Estadio Akron) – グアダラハラ
- 元のピッチ:天然芝(2012年に人工芝から転換済み)
- 2026年計画:ハイブリッド芝への更新との情報あり?
- 品種:バミューダグラス(種類は不明) (夏芝)
- 詳細:グアダラハラの気候は乾燥しており、暑さに強いバミューダグラスが最適解に。
- 技術:2026年に向けて、ピッチ下の土壌構造を改良し、散水と排水の効率を最大化するシステムが導入される予定。
- 課題:屋根が大きく四方を囲んでいますが、少しだけ客席と屋根の間に隙間があるので、風通しは悪くなさそう。とはいえ日当たりが悪いのでバミューダグラスで乗り切るのは難しいように感じますが、気温的にも冬芝を使うのはなし。グループステージのみの4試合だけなので、何とか乗り切ることはできそう。

3. エスタディオ・BBVA (Estadio BBVA) – モンテレイ
- 元のピッチ:天然芝
- 2026年計画:SISGrass(シスグラス)ハイブリッド補強
- 品種:バミューダグラス (Tahoma 31)(夏芝)
- 詳細:2025年5月にピッチの全面掘削が行われ、深さ45cmまで土壌が入れ替えられた。モンテレイは夏に極めて高温になるため、耐熱性に優れた「Tahoma 31」が選定されそう。
- 技術:英国のSIS Pitches社による真空換気システム(Vacuum Ventilation System)がインストールされた(私のいるアーセナルのホームスタジアムであるエミレーツスタジアムも導入済み。詳細は後程)。これにより、ピッチ内の余分な水分を強制的に排出し、また根に酸素を供給可能。
- 課題:屋根がデカく四方を完全に囲まれている状況で、バミューダグラスに必要な太陽からの光が足りないのではないかと私は感じています。グローライトで補う予定のようですが、私の計算ではバミューダグラスには1日20時間当て続けてようやくマシになるレベルなので、気休め程度でしょう。とはいえここも4試合だけなので、乗り切ることはできるかと。

カナダ会場(ドームによる日陰対策と人工芝からの転換)
カナダの2会場はいずれも人工芝を主として使用しており、ワールドカップのために一時的な天然芝システムを導入しますが、その管理の難易度は極めて高いと思われます。
4. BCプレイス (BC Place) – バンクーバー
- 元のピッチ:人工芝 (Polytan)
- 2026年計画:一時的に天然芝にする
- 品種:ケンタッキーブルーグラス / ライグラスブレンド(冬芝)(予想)
- 詳細:開閉式屋根を持つドームスタジアムであり、床面はコンクリート。2015年女子ワールドカップでは人工芝で開催され物議を醸したが、2026年はFIFAの命令により天然芝に。
- 技術:屋内環境での日照不足を補うため、SGL社のグローライトが大量に投入される。また、ピッチはトレイ式またはロール式の天然芝を敷き詰める形となるが、継ぎ目の問題を解決するために長期間の養生が計画。
- 課題:バンクーバーは冷涼な気候であり、芝の生育速度が遅いため、損傷時の回復が課題。スタジアム自体は開閉可能な屋根とはいえ大部分は囲まれています。とはいえ冬芝は、グローライトがあればなんとかできるため、回復速度を促進させることは夏芝よりも容易でしょう。ただし7試合をこなすのは容易ではなく、中1日で試合を行う日程も組まれているため、グラウンズパーソンの腕の見せ所でもあります。

5. BMOフィールド (BMO Field) – トロント
- 元のピッチ:ハイブリッド天然芝(既に導入済み)
- 2026年計画:SISGrassによる最新ハイブリッドへの更新
- 品種:ケンタッキーブルーグラスとライグラス(冬芝)
- 詳細:BMOフィールドはカナダで唯一、既に世界基準のハイブリッド天然芝を持っているスタジアム。しかし、ワールドカップに伴う座席増設工事(約17,000席追加)により、ピッチへの日照条件が悪化するため、グローライトの更なる導入とピッチのリノベーション作業が行われる予定。
- 技術:2024年から2段階に分けて改修が行われ、地中の温水ヒーティングシステムとSISGrassのステッチタイプのハイブリッドターフが最新仕様にアップグレードされます。
- 課題: 増席後の屋根がどのような感じになっているのか、今現時点で私の方で調べることができていませんが、多くの画像から見るに、屋根も比較的小さく、冬芝のため、グローライトを駆使すれば6試合なら乗り切れるかと思います。ただ、中2日での試合が4試合続く(試合は中2日ですが、前日練習の可能性もあるので実質連続的な利用)ので、ここの管理がピッチコンディションを大きく分けることになりそう。グラウンズパーソンの腕は確かなものと聞いているので、問題はないと思います。

米国・東海岸会場(寒冷地とNFLスタジアム)
NFLの本拠地である巨大スタジアムが多く、人工芝からの転換が最大の焦点となるエリア。
6. メットライフ・スタジアム (MetLife Stadium) – ニュージャージー/NY
- 元のピッチ:人工芝 (FieldTurf Core)
- 2026年計画:一時的にハイブリッド天然芝システムへ
- 品種:ケンタッキーブルーグラス / ライグラスの混合(冬芝)
- 詳細:決勝戦の舞台となるこの会場は、クラブワールドカップでの失敗を受けて最も厳しくFIFAが注視しています。2026年には、クラブワールドカップ時よりもはるかに長い準備期間を設け、スタジアム近郊の契約農場で育成された完成度の高い芝生を、成長を促進する芝生に用いるカバーなどあらゆる手段を使って最高の状態で移植する計画だそう。芝生の種類も2025年はバミューダグラス(夏芝)を使用したのに対して、今回はブルーグラス(冬芝)を用いて改善を図る予定。
- 技術:コンクリート床の上に設置されるため、排水とクッション性を担保する高度な下地層が必要。
- 課題:前回不評だったのは、比較的冷涼なニュージャージー州(調べた感じだと、私のいるイギリスに近そう)に対して、夏芝を使用したのが最大のミスだったため、それを冬芝に代えてどうなるか。また、決勝戦を含めて8試合もあり、特に決勝戦前は13日間試合を行わないので、個人的にはブルーグラスを使いつつ、ダメージを負ったところにはライグラスで補修していくのではないかと推測。むしろそれがベストだと提案します。正直屋根がないので他より生育は容易な気もしますので、芝生の選定ミスが前回の大きな失敗要因でしょう。

7. ジレット・スタジアム (Gillette Stadium) – ボストン
- 元のピッチ:人工芝
- 2026年計画:一時的天然芝システム
- 品種:ケンタッキーブルーグラス / ライグラスブレンド(冬芝)(予想)
- 詳細:ボストンの夏は湿度が高いですが、比較的冷涼な気温のため、基本的には寒地型芝草が適しており、今大会も冬芝を使用予定。コンクリート床の上に天然芝を敷設するが、排水管理のためにサブエアシステム(土壌中の水分を吸いだして排水し、足りない場合は補給できるシステム。詳細は後程)の仮設導入が検討されている。
- 課題:調べたところ屋根がないので、天然芝を育てるにはほかのスタジアムより向いていそう。ただし、日射量が強く気温が高い場合は、冬芝を使用するため、乾燥を防がなければならず、散水等のコントロールが重要。とりわけ芝生を張ったばかりともなれば、水分量は極めて大切で、多すぎるとプレーに影響し、少なすぎると芝生が枯れます。心配事としては、天然芝がどれだけ活着するのかという点。

8. リンカーン・フィナンシャル・フィールド (Lincoln Financial Field) – フィラデルフィア
- 元のピッチ:天然芝のTahoma 31 バミューダグラス(夏芝)(ハイブリッド)
- 2026年計画:既存ハイブリッドを残してケンタッキーブルーグラスへ変更
- 品種:ケンタッキーブルーグラス(冬芝)
- 詳細:フィラデルフィアは寒冷地にあるが、このスタジアムは通常寒さに強い「Tahoma 31」バミューダグラスを採用しており、NFLシーズン(冬)でも緑を維持できる実績があります。しかしサッカーでは、ボールの転がり方、ボールのスピードが重要であるという点から、大会期間中はケンタッキーブルーグラスとハイブリッドターフに変更するとのこと。
- 技術:既存のハイブリッドターフ(GrassMax)などの補強が入っており、品質は非常に高い。
- 課題:屋根もほぼなく試合数も6試合で、大きな課題はなさそう。ただしケンタッキーブルーグラスへの大会期間中の変更がどうなるのか気になるところ。夏芝と冬芝では、夏場の管理手法も変わるので、ここに知識のある芝生管理者がいらっしゃれば問題ないと思いますがどうなるか。

9. ハードロック・スタジアム (Hard Rock Stadium) – マイアミ
- 元のピッチ:天然芝
- 2026年計画:既存の天然芝のまま(バミューダグラス)
- 品種:バミューダグラス (Tifway 419(日本名ティフトン419) または Tahoma 31)(夏芝)
- 詳細:温暖で芝の生育は容易だが、激しい雷雨(スコール)が課題。このスタジアムは既にサブエアシステム等の高度な排水システムを備えており、W杯に向けて大きな変更は不要ではあるものの、品種をより耐久性の高いものへ更新する可能性(Tahoma 31など)あり。
- 課題:屋根もそこまで大きくなく、隙間もあり、試合もほかのスタジアムよりも日程が過密ではないため難しいとはいえ最後までクオリティの維持はできそう。天然芝をもともと使用していたスタジアムなので、管理の技術は問題ないでしょう。ただし前回大会では、大会開催直前のコンサートをいれるという日程調整のありえないミスが発生し、それによって芝生に深刻なダメージを負っています。マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督をはじめとする現場からは、過密日程による疲労に加え、このような不安定な足元でプレーさせられることへの不満が噴出。「選手の安全」よりも「商業イベント」を優先したスタジアム運営の結果であり、FIFAの管理能力も問われる事態となっているため、それさえなければ問題ないピッチ。

米国・南部/中部会場(ドームと酷暑対策)
この地域のスタジアムは、夏の外気温が極めて高い、もしくはドーム構造により閉鎖的であるため、芝生を管理するテクノロジーのありとあらゆるものを導入することが不可欠。
10. メルセデス・ベンツ・スタジアム (Mercedes-Benz Stadium) – アトランタ
- 元のピッチ:人工芝
- 2026年計画:一時的ハイブリッド天然芝システム
- 品種:バミューダグラス (Tahoma 31)(夏芝)
- 詳細:開閉式の屋根を持つが、構造が複雑で日照確保が難しい。それでもクラブワールドカップでは、チェルシーのエンツォ・マレスカ監督は、「ピッチは良かった。何の問題もなかった」と述べ、他会場で見られたようなトラブルがなかったことを認めるなど、一定の評価を得ていたのは事実。2026年には、SubAirシステムと強力なグローライトを併用し、人工芝の上に設置された天然芝の根腐れと蒸れを防ぐ対策が強化される。ちなみに屋根を閉じたときはエアコンが使われます。快適。
- 課題:個人的に一言。ここで天然芝を育てるのはImpossible。夏は暑く湿度も高いため、使用する芝生は夏芝一択ですが、この屋根とこのスタジアム自体の構造では、夏芝をどうやって芝生を育てればいいのか分かりません。しかも風も日光も遮られた環境下で、8試合を行う予定ですので、これは大荒れの予感がします。エアコンがありますが、さすがに毎日使うと電気代が高すぎるのであり得ないかと思います。ひょっとしたら、どこかのタイミングでリノベーションして、新しい芝生を大会期間中に持ってくる可能性も?個人的には以前ウェンブリースタジアムに来て情報交換した方がいらっしゃるので、頑張ってほしいところ。

11. AT&Tスタジアム (AT&T Stadium) – ダラス
- 元のピッチ:人工芝
- 2026年計画:モジュラー式天然芝システム(MSU方式)
- 品種:バミューダグラス (Tahoma 31)(夏芝)
- 詳細:完全なドームスタジアムであり、日光はほとんど入らない。ミシガン州立大学(MSU)の研究に基づき、屋外で育成した芝生を専用のトレイごと搬入し、パズルのように組み合わせる方式が採用される可能性が高い。これがモジュラー式天然芝システムと呼ばれます。
- 技術:屋根から吊り下げるタイプの巨大なSGL育成ライトシステムが導入され、スタジアム内で芝生を「生存」させるだけでなく「成長」させることが目指される。


- 課題:屋根がこのスタジアムも完全に覆っていて、風通しもないため、芝生の管理は非常に困難。ダラスは調べたら夏は暑く湿度も高いので夏芝で挑むそうです。ただ個人的に気になるのは、屋根から吊り下げるグローライト。計算上20時間以上光を当てれば夏芝でも気休めの成長は見せてくれるので、おそらく作業と試合以外の時は常にライトを照射し続けるのでしょう。地面に置ていないので作業は可能ですが、人間の視力に問題が生じそうなライトの元で仕事をするのは、人間の健康的に良くないのでやめた方が良いでしょう。この会場では9試合も行うため、おそらく最後の方はボロボロかと。ケガだけが心配。

12. NRGスタジアム (NRG Stadium) – ヒューストン
- 元のピッチ:人工芝
- 2026年計画:一時的天然芝システム
- 品種:バミューダグラス(品種は不明)
- 詳細:かつてはトレイを持ってくるシステム(AT&Tスタジアム)と同じを使用していたものの、継ぎ目の問題で選手が負傷し、2026年は、過去の失敗を教訓に、より継ぎ目が目立たないシームレスな工法(大型ロール芝の採用など)を検討。
- 課題:ここもこれまた大きな屋根と客席に囲まれていて、そのうえで夏芝を使用するので、クオリティの維持は困難。しかも試合は16日間で6試合とかいう管理者なら泣きそうな日程。人工芝から切り替えてのこのピッチ、おそらく問題が起こります。

13. アローヘッド・スタジアム (Arrowhead Stadium) – カンザスシティ
- 元のピッチ:天然芝
- 2026年計画:既存天然芝の維持・強化
- 品種:NorthBridge(バミューダグラス) または Tahoma 31 バミューダグラス(夏芝)
- 詳細:NFLでも屈指の品質を誇る天然芝スタジアム。地中に温水パイプ(Under-soil heating)が埋設されており、気候変動に強い。ワールドカップに向けては、FIFA基準に合わせた刈り込み高や硬さの微調整が行われる程度で済むと見られています。
- 課題:屋根がなく夏芝に適した気温で、最高のピッチコンディションになりそう。7試合行う予定ですが、グラウンズパーソンの腕が確かなら何事もなく終わるでしょう。課題は特にありません。個人的にノースブリッジというバミューダは、耐寒性と干ばつに優れた芝なので気になっています。これで日陰に強いなら日本でも使えそうなので面白いなと思いますが、このスタジアムに屋根がなく日陰が客席くらいでしかないため、どれほどのものか確認できないのは残念。

米国・西海岸会場(ハイテク改修と太平洋気候)
14. SoFiスタジアム (SoFi Stadium) – ロサンゼルス
- 元のピッチ:人工芝
- 2026年計画:構造改修を伴う天然芝とハイブリッドターフ
- 品種:ケンタッキーブルーグラス(冬芝)
- 詳細:アーセナルのオーナーでもあるクロエンケさんの所有物。世界で最も高価なスタジアムの1つだが、サッカーのフィールドサイズ(幅68m)を確保するには狭すぎるという設計上の問題があった。2026年に向け、下層スタンドのコーナー部分を削り取る工事が行われている。
- 技術:単純に芝生を持ってくるではなく、床面に恒久的なピッチと同様のサンドベースプロファイル(砂層)と真空換気・灌水システムを構築し、人工芝を完全に撤去した上で天然芝を敷設する大規模なアプローチが採られます。屋根は半透明ですが、UVカット率が高いため、ここでも育成ライトが必須。
- 課題:まだ他の完全に囲まれた屋根のスタジアムよりも多少光が多く降り注いでくれる構造なので、良いように見えるものの、ガラス越しのためそれでも夏芝には十分な光量ではありません。そのため気温的には夏芝がいいかなと私が思うところを、ここでは冬芝を採用。ちなみにわたくし、このスタジアムの人工芝から天然芝へのリノベーション作業にお邪魔しますので、今からワクワクしています。

15. リーバイス・スタジアム (Levi’s Stadium) – サンフランシスコ/サンタクララ
- 元のピッチ:天然芝
- 2026年計画:既存天然芝(品種更新の可能性)
- 品種:バミューダグラス (Bandera または Tahoma 31)(夏芝)
- 詳細: 開業当初は芝の定着が悪く崩れやすいと批判されたが、現在は改善されている。2026年には、他の会場と品質を統一するために「Tahoma 31」への張り替えが行われる可能性が高い。
- 課題:屋根ほぼ無しで客席に傾斜がありそれが日光を遮る可能性があるものの、他のスタジアムと比べたら遥かにマシ。このスタジアムで芝生に問題があったら、それは芝生育成のグラウンズパーソンの責任とも言えます。課題は芝生管理者へのプレッシャーのみ。

16. ルーメン・フィールド (Lumen Field) – シアトル
- 元のピッチ:人工芝
- 2026年計画:一時的天然芝システム
- 品種:ケンタッキーブルーグラス / ライグラスブレンドorトールフェスク(冬芝)
- 詳細:クラブワールドカップで酷評された会場の1つ。シアトルの冷涼で曇りがちな気候は、屋根のあるスタジアム内での芝生育成を極めて困難にしているため。
- 技術: 州議会により承認された約1940万ドルの改修予算の一部を用いて、ワールドカップ専用の真空換気システムと灌水システムを導入する。これは、クラブワールドカップのような「単に芝を置く」方式から脱却し、空気循環によって芝の根を活性化させ、ピッチの硬さをコントロールするための投資である。
- 課題:屋根の感じを見るに、埼玉スタジアムのような感じなので、他の屋根のあるスタジアムよりも生育は幾分かマシでしょう。それに冬芝を使用し、シアトルもそこまで暑くならないので、課題は持ってきた芝生がどれだけ活着するのか。

芝生管理者目線からコメント
投資額が半端ない。USA!USA!といった感じです。
簡単にここでは書いていますが、ハイブリッドターフやグローライトの導入、サブエアシステムといった排水などの土壌中水分量のコントロール設備は、どれも簡単に導入できるような金額ではありません。
例に出したくないですが、日本ではグローライト1台購入するのにもかなり躊躇するようなところが多い中で、これだけの投資をできるのは、さすがUnited States of Americaといったところでしょう。
では上記スタジアムで出てきた用語解説に移ります。
SubAirシステム、真空換気システムなどの高度な排水システムって何?
今回、スタジアムの芝生を観てきた中で、高度な排水システム、サブエアシステムという表現の言葉をたくさん使わせていただきました。
これはどういったものなのか。
これは芝生の根域に酸素を供給し、二酸化炭素を排出し根の呼吸促進や土壌中の健全なバランスを行うエアレーション機能、そして大量の降雨時や、試合前のグラウンド調整時に、地中の過剰な水分を急速に除去する機能のこと。
何が起こっているのかというと、グラウンドの地下に埋設された配管ネットワークと、強力な送風機(ファン)の組み合わせによって行われ、一言で言えば、「地下から空気を吸い上げる」か、「地下へ空気を送り込む」か、この2つの気流を切り替えることでガス交換(呼吸)を行っています。ピッチが呼吸するようなもんです。
ピンときましたか?笑
もう少しかみ砕いて説明しますと、従来のグラウンドの排水は、重力に頼って水がゆっくりと土壌を通過するのを待つ必要がありました。しかし、サブエアシステムなどの高度な排水システムは、このプロセスを機械的に強制的に加速させます。
要は、土壌中に水が多すぎる場合は、機械で土壌中から水を強制的に吸い出して対応することが可能。これで大雨でも問題なくなるというシステムです。
ちなみにこのシステムは、2024年のプレミアリーグの調査によりますと、およそ15%のクラブがスタジアムで使用しているとのこと。私のいるアーセナルのエミレーツスタジアムもそのシステムが採用されていて、雨が大量に降ったとしてもエミレーツスタジアムのピッチがキレイなのは、こういった設備投資がしっかりされていて、それを活用できる芝生管理者がいらっしゃるためです。
グローライトとは?
グローライトに関しては、以前のブログで書いていますので、そちらを参考にしてください。

簡単にご説明しますと、太陽光の代わりにライトが補助的な役割で芝生に光を供給して、光合成を促すということです。とはいえ、あくまでも「補助」という点はお忘れなく。
気になる日本の試合会場は?
日本の試合会場は以下の通り。
- vsオランダ戦:ダラス
- vsチュニジア:モンテレイ
- vs欧州プレーオフ:ダラス
芝生から見る日本代表が気を付けるべき戦術的なアプローチ
1試合目と3試合目に行われるダラスのAT&Tスタジアムは、トレイごと持ってくるスタイルで芝生を持ってくると思いますが、継ぎ接ぎがかなり気になるところ。ショートパス主体やドリブル主体は、ひょっとしたらボールのイレギュラーが頻繫に起こる可能性があるため、注意が必要ではないかと思います。
継ぎ目の問題に関しては、異なるスタジアムではありますがチェルシーのリース・ジェームズがプレーに不安を覚えたことを話しています。
また、空中戦等の激しいバトルによって、選手がピッチに倒れこむ場合、一段と注意が必要でしょう。理由は今回長らく書いてきましたが、コンクリートの上などに天然芝を持ってきていて、クッション性が十分でないため。
2試合目に行われるモンテレイのエスタディオ・BBVAは、確かに屋根が大きく生育が困難なスタジアムではあるものの、もともとある天然芝を入れ替えこの大会に挑んでいることもあって、芝生に関して人工芝から天然芝にするスタジアムのように、継ぎ接ぎがあったり等の懸念はないでしょう。
一方、管理技術は未知数。真空換気システムとハイブリッドターフを導入して、そして注目されているTahoma 31も導入して、どれだけのピッチコンディションになるのかはその時にならないと分からないのも事実。
とはいえ、試合数も多くなく、日本代表が試合するのはスタジアム単位でも2試合目なので、ピッチコンディションに大きな不安はないでしょう。
個人的に芝生から見れば日本代表が有利な気も?
試合会場的には、ひょっとしたら日本代表が有利なのかもしれません。理由としては、気温。
チュニジアはともかく、ヨーロッパの国と暑い環境で出来るのは、日本人としてかなり有利かもしれません(ヨーロッパ組が多いので何とも言えませんが・・・)
また、芝生的にもJリーグでは多くの試合会場や練習場では夏芝を使用しているため、ピッチコンディションを味方につけることが出来そう。
わざわざ夏芝から冬芝にするスタジアムも現れていることから、ヨーロッパサイドは夏芝に対して、あまりいい印象を持っていないようですし、ヨーロッパの多くの国々では、比較的冷涼なため、冬芝を使用する国が多いですから(とはいえ温暖化で少しずつ夏芝を使用している国も増えています)、ピッチコンディションを味方につけられるかもしれません。
大会を通して優勝するためには?
今回のワールドカップで優勝するためにはどうすればよいのか。あくまで芝生等のピッチから見てです。
今までもそうだったかもしれませんが、今大会ではより一層サブメンバーの充実が大事になるとみています。
その理由は、天然芝へと変更したスタジアムの疲労感が、おそらくもともと天然芝だったスタジアムと比べて倍以上になると私は見ているからです。
これは、上記でお伝えしたベリンガムが話していたように、走った時の疲労感がすごいということに繋がります。
同じ選手を起用し続けるのは、戦術的に見ても監督の心理状況からしても理解できますが、今大会ではまさにチーム一丸となってサブメンバー含めて全員で戦えた国が優勝することになるでしょう。いや、サブメンバーという呼び方はもはや正しくないのかもしれませんね。選手各々のプレー時間のコントロールは極めて重要だと思います。
そういった選手起用の柔軟さと選手層の厚さ、選手のコンディションのケアが今までの大会以上に重要視されるような気がしており、私は今までの優勝国や優勝候補以外の国にもベンチメンバー含めた総合力が高い国にチャンスがある大会になりそうだと思っています。
試合会場でピッチコンディションが全く異なる点が優勝に大きく影響する?
私が個人的に危惧しているのは、このブログの中盤くらいで書いた「ケガのしやすさ」というところで、人工芝ピッチを天然芝にしたところのスタジアムで試合を多くする国と、もともと天然芝だったスタジアムで試合を行ってきた国とでは、かなりのハンデキャップが生まれる可能性があるのではないかと、私は考察しています。
人工芝から天然芝に変えたピッチでの試合数が多ければ多いほど、選手への疲労感はベリンガムが言うように多くなるのは間違いないでしょうから、これは正直アンフェアであると言ってもいいと思います。
ちょっと私の方ではどのスタジアムでどの国がどのくらい試合をするのかまで把握できていませんが、少なくとも日本代表はグループステージの時点で2試合ダラス(人工芝から天然芝に変えたピッチ)で行うことが確定しています。
日本がワールドカップを単独開催できる道はある?
ちょっと本題とずれますが、日本が今後ワールドカップで単独開催可能なのかどうか。
今後のワールドカップでは、もし今のままのフォーマットで行くのであれば試合数が今までよりも増えるので、試合会場も増やさなければならなくなりました。
2022年のカタールワールドカップでは、64試合を8会場で回していましたが、正直お金に余裕があるからできていただけで、普通のところではこの8会場だけで64試合を行うために芝生を維持するのは厳しかったように思います(多くの今までのワールドカップでは12会場使用しているケースが多い)。
カタール大会の芝生に関しては、以前ブログでまとめていますので、そちらもぜひ。


そして今回は16会場で全104試合。(4年前の私の予想通り、通常の12会場から4会場増やした16会場になっています)
2030年はモロッコ、ポルトガル、スペインの3か国、そして2034年はサウジアラビアがホスト国となります。
サウジアラビアは国を挙げてサッカーに投資しているためともかくとして、今後単独開催は、たくさんのスタジアムを持ち、そのうえでそれぞれのキャパシティが大きいスタジアムがある国でないと、ほぼ不可能になってくることが考えられ、日本のワールドカップ単独開催は、正直今のままでは絶望的と言えます。
日本ではスタジアムの数は十分かもしれませんがキャパシティといった規模が足りておらず、単純に芝生管理者もスタジアムのピッチを管理できる人材がかなり不足しているため、このあたりを考えていかないと厳しいでしょう。
2026年ワールドカップ、村井郁允は大会に行くのか?
結論から言いますと、本大会期間中はいきません。
ですが、大会前の芝生の準備にはいきます。
サッカー好きからしてみれば何を言っているのかさっぱりでしょうが、本大会中は人も多いし(人が多いところが嫌いなタイプの人間です)アメリカの銃社会が恐いので、行きません。
しかしこの記事にも書きましたが、ロサンゼルスのSo-Fiスタジアムの人工芝から天然芝に切り替えるところは、技術的にも滅多にみれるものではありませんし、何よりどうなっているのか非常に興味があるので、これを観に行くために、アーセナルの仕事の有給休暇を申請して、このSo-Fiスタジアムに行きます!
きっと日本人でロサンゼルスに行ったにもかかわらず、野球も観ず、サッカーも観ないで芝生しか観ない人間は、私しかいないでしょう笑
そのレポートもお楽しみに。
まとめ
長すぎです。書いていて疲れました。
ですが、自分でも新たな発見もあって、自分でもより詳しく芝生のことを知ることができたので、きっと皆さんにとっても良いブログになったのではないでしょうか?
今大会はピッチコンディションといかに向き合うのかがカギを握る予感がします。それはプレーの面でも選手のケガの面でもそうです。
ですので、本大会、芝生にも注目してみていただけると、1.1倍くらいは面白くなるのではないでしょうか?
そして最後に一応お伝えしますが、現時点で私が得た情報ですが、ひょっとしたら間違えている個所もあるかもしれませんので、その点はご了承ください。間違いないという自信はありますが、もし見つけたのであれば「きっと疲れているのだろうな」と思ってください。
それではまた。


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