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25-26シーズンにヨーロッパで起こった芝生に関しての気になる話題4選

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25-26シーズン、振り返ってみますとあくまで個人的にですが、芝生に関しての話題がとても多かったように思いますので、それらから私が気になった話を4つほどご紹介させていただきます。

このブログの作者Ikumiはアーセナルで
グラウンズパーソン(グラウンドキーパー)として働いています。
今までも芝生に関しての記事をたくさん書いてきましたので、
気になる方々はぜひ過去の記事を遡ってみてください。
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ブログの作者Ikumi

1. アトレティコ・マドリードに見る「芝生戦争」と新フォーマットやスタジアム利用の過酷さ

チャンピオンズリーグの新フォーマット移行による試合数の激増、そして近年のスタジアムを最大限活用しようという試みは、ピッチ環境に致命的な負担をかけています。

その最前線とも言えるのがアトレティコ・マドリードの本拠地メトロポリターノだったのではないでしょうか?

多くの方々が騒がれた1月2月あたりのメトロポリターノでしたが、実は11月にはNFLの練習など「多目的化」によるダメージが蓄積。NFLほどの強度の高い練習ともなれば、芝生の張替えが行われるのは言うまでもないでしょう。

ただ、その張替えはスペインの珍しい長雨によって、そして冬の寒い気温によって芝生が根付きにくい環境となり、結果的にピッチコンデションの維持は困難となり、皆さんの記憶にある「あの滑るピッチ」へと豹変してしまいました。

アトレティコ・マドリードのホームスタジアムが滑っている謎について
なぜアトレティコ・マドリーのホームスタジアムであるメトロポリターノのピッチが滑っているのか。

なぜそうなってしまったのかの詳しい理由は、上記の以前のブログで書かせていただいています。

そして、アトレティコ・マドリードのシメオネ監督は、あえて芝を規定ギリギリの長さ、UEFAルールだと30mmでしかも水をまかないでピッチを乾燥させ、相手のパススピードを落とす作戦を行っていました。

実際にバルセロナは、このピッチに対して大苦戦していたような印象を受けます。

実は我々アーセナルは、アトレティコ・マドリードのホームゲームに乗り込む前、リーグ戦が終わった瞬間からSobha Realtyトレーニングセンターのピッチの芝生を刈らず、そして練習前の散水も行わないという異例の対策を行いました。それもあってなんとか1-1のドローで終えたのかと思いますし、これがいわゆるチームで挑む、チーム戦という感じになったのではないでしょうか?ちなみにそのあと、アウェイ遠征中に芝生は元の長さに戻さなければいけないので、何度も芝刈り機がピッチ上を走り回っていましたね笑

このメトロポリターノにおけるピッチの芝生の作戦に対し、UEFAがルールの厳格化に動くなど、過密日程とホームアドバンテージを巡るピッチ管理の最前線として大きな話題を呼びました。

個人的な意見ですが、芝生の長さや散水に関しては、30mm以下という規定があるため、規定通りであればアトレティコ・マドリードは問題ないと思いますし、散水に関しても、ホームアドバンテージという面で言ったら、ホーム&アウェイである以上、何も問題ないと思います。

実際に日本ではそういったルールはなく、より芝生管理差もホームアドバンテージをいかにして作るのかというチームとして戦えていた部分もあり、面白く感じました。

ただ、当然ながら、それがケガにつながるようなものにならないことが第一原則です。

コラム:なぜ芝刈りを行うのか。芝生が及ぼすサッカーへの影響
芝生とサッカーの戦術について書かせていただきました。ただ緑なだけでなく、実はサッカーの戦術にもかかわってくる大事なファクターであることを皆さんに知っていただきたいです。

芝刈りが及ぼすサッカーへの影響など芝生とサッカーのゲームへの関係性は以前のこちらのブログで書いていますので、ぜひご覧ください。

選手のケガの前に、芝生も悲鳴を上げている——試合数増加がピッチにもダメージを与えている
過密日程で疲弊するのは選手だけではない?サッカー界で急増する大ケガの背景にある「ピッチの限界」とハイブリッド芝の硬さが与える影響を解説。芝生を管理するグラウンズパーソンが、現代サッカーの構造的問題に警鐘を鳴らします。

そして過密日程と芝生についても書かせていただいていますので、こちらもぜひ。

2. メガクラブを沈めたボデ・グリムトの「人工芝」

25-26シーズンのチャンピオンズリーグで猛威を振るったのが、ノルウェーのボデ・グリムトの本拠地にある人工芝ピッチ。もう忘れてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

極寒の気候条件に加え、普段の最高級天然芝とはボールの転がり方が全く異なり、しかも試合前にとんでもない量の散水を行いボールスピードを極限まで高めていたため、マンチェスター・シティやインテルといったメガクラブが大苦戦。

トップ選手たちであっても環境への適応がいかに難しいかを示す、究極のアウェイ環境となりました。

24-25シーズンにトッテナム・ホットスパーがヨーロッパリーグで対戦した際には、トッテナム・ホットスパーはその対策として人工芝で練習を行っていたというのを耳にしました。

それほどまでに、ピッチの環境1つで戦況が変わる。私がたびたび言っていますが、芝生は戦術を変える。それだけ重要なのです。

【スタジアム問題】天然芝と人工芝はどちらが良いのか?
スタジアム建設問題などで話題に上がる天然芝と人工芝、どちらがよいのか?今回は私からの目線で様々なことを書かせていただきました。
選手のケガの前に、芝生も悲鳴を上げている——試合数増加がピッチにもダメージを与えている
過密日程で疲弊するのは選手だけではない?サッカー界で急増する大ケガの背景にある「ピッチの限界」とハイブリッド芝の硬さが与える影響を解説。芝生を管理するグラウンズパーソンが、現代サッカーの構造的問題に警鐘を鳴らします。

人工芝については、以前のブログでもいくつか書かせていただいていますので、ご確認ください。

3. EUの環境規制と人工芝「マイクロプラスチック」問題

先ほど書いた人工芝についてですが、その人工芝のクッション材として広く使われてきたゴムチップが、海洋汚染などを引き起こす「マイクロプラスチック」として2023年9月にEUの厳しい環境規制の対象となりました。

2031年をもってゴムチップの販売が禁止されることが決定しており、欧州の各クラブは環境に配慮したコルクなどの代替素材への移行を迫られています。しかし、天然素材は耐久性や管理面での課題が多く、その莫大な移行コストも議論の的になっています。

アーセナルのアカデミーの子たちがのびのびと練習している通称ヘイルエンドでは、人工芝のピッチにはゴムチップではなく、体に害のないクッション材をイタリアから輸入しています。

人工芝の問題は、日本でも他人事ではないでしょう。残念ながら日本の多くの会場は、人工芝は作ったらノーメンテナンスでOKと思っているところが多いように思います。ですが実際には、定期的なクッション材の確保であったり、人工芝繊維を維持するためにブラッシングを月に何度も行ったり、実はやることが多かったりもします。

コストという面でこれを怠って、結果的にコンクリートの上に緑の絨毯を引いたような何のクッション性もない、ただの緑の場所、自称サッカー場が多いのが残念なところ。

今後日本もこのマイクロプラスチック問題にどう取り組んでいき、そして人工芝の維持管理を確立していくにはどうすればよいのかは、真剣に考えていくべきかと。

環境問題以外だと、健康被害という側面でも無視できなくなってきています。

Health Impacts of Artificial Turf: Toxicity Studies, Challenges, and Future Directions - PMC
Many communities around the country are undergoing contentious battles over the installation of artificial turf. Opponen・・・

この論文からは、人工芝が人間に発がん性があると現段階で断定することはできないとしています。

しかしその一方で、、、

  • 成分には発がん性物質が含まれている: 人工芝のクッション材として使われるクラムゴム(廃タイヤ)やプラスチック部品には、多環芳香族炭化水素(PAHs)、フタル酸エステル、過フルオロアルキル物質(PFAS)など、既知の発がん性物質や神経毒性物質、内分泌撹乱物質が多数含まれていることが多くの研究で明らかになっています。
  • 人間における疫学的証拠は不足しており、関連も確認されていない: 実際に人工芝を利用することががんにつながるかを調査した人間の疫学研究は非常に限定的なもので、この論文内では、ワシントン州の女性大学サッカー選手を対象とした調査や、カリフォルニア州の各郡における人工芝の密度とがん発生率の関連調査が行われましたが、いずれもがん発症との有意な関連は見つかりませんでした
  • 推定されるリスクは低いとする研究が多い: 吸入や摂取による人間への曝露を推定したいくつかの研究では、一般的に化学物質の体内への導入量が低く、リスクも低いと推定されています。ただし例外として、ゴム製遊び場の表面からのPAH曝露による子どものがんリスクをシミュレーションした研究では、土の表面と比べて10倍高いリスクが推定されたという報告も存在します。

結論として、人工芝の成分自体に多数の発がん性物質が含まれているという証拠は豊富にあるものの、実際の人工芝環境での曝露が人間にがんを引き起こすことを示す疫学的な証拠は乏しいのが現状です。

そのためこの論文では、人工芝による有害化学物質の存在と実際の曝露による健康影響との間のギャップを埋めるために、人間を対象とした疫学研究や、すべての曝露経路を考慮したさらなる毒性研究が強く必要であると結論づけています。

そのほか調べてみると、少し気になるお話も発見しました。

以下抜粋(日本語訳)

「私はワシントン大学に21年間在籍しています」とグリフィン氏は語ります。「最初の15年間は、何の異変も目にしませんでした。リンパ腫を患っている知り合いは1人もいなかったのです。しかし今では、私個人が知っているだけでも、がんに罹患した人が6人います」

2010年までに、彼女はがんを患ったサッカー選手12人についての話を耳にし、リストを作成し始めることにしました。現在、彼女のリストには人工芝でプレーしてがんを発症したサッカー選手230人が記録されており、そのほぼ全員がゴールキーパーです。

「一体なぜなのでしょうか?」と彼女は言います。「人々がその危険性に気づくまでに35年もかかった、アスベストのようなケースと似ているのではないかと考えたのです」

Artificial Turf and Cancer Risk | JNCI: Journal of the National Cancer Institute | Oxford Academic 2016年の記事

アメリカにおける乳がんの予防を呼びかける団体のホームページでは、(人工芝曝露の隠れた健康リスク – 乳がん予防パートナーズ(BCPP)

  • 人工芝に触れたらすぐに手と服を洗ってください
  • 人工芝フィールドでの飲食は控えてください
  • 可能であれば長袖と長パンを着用してください

とまで呼びかけているほど。

個人的には、「人々がその危険性に気づくまでに35年もかかった、アスベストのようなケースと似ているのではないかと考えたのです」という言葉は、少し恐ろしく感じました。

今後どうなっていくのか。日本でも秩父宮ラグビー場が人工芝になりますが、ラグビーのような地面に倒れてナンボのようなスポーツだと、どうなるのでしょう。

4. 気候変動の脅威:猛暑が生み出す芝生への影響

近年ヨーロッパ全土を襲う夏の異常な猛暑は、各クラブの芝生管理者たちにとって、最大の脅威となりつつあります。青々としていたはずのピッチが急速に茶色く変色していく背景には、植物学的なミスマッチがありました。

① 伝統的な品種と気候の「致命的なミスマッチ」

ヨーロッパのサッカースタジアムで伝統的に採用されてきた芝生(ペレニアルライグラスなどの寒地型芝)は、本来15℃〜25℃の涼しく穏やかな気候で最もよく育ちます。しかし近年、夏場に気温が連日35℃や40℃を超える熱波が常態化したことで、芝生は極度の熱ストレスに晒され、自己修復能力を完全に失う事態に陥っています。

② サウナ状態のピッチが生み出す病害と根腐れ

さらに深刻なのが、暑さを凌ぐための管理が逆効果を生むケースです。

  • 過剰な散水によるサウナ化: ピッチの表面温度を下げるために大量の水を撒きますが、巨大なスタンドに囲まれ風通しの悪いスタジアムでは、熱せられた土壌の水分が蒸発し、ピッチレベルが高温多湿の「サウナ状態」になります。ゆえに超巨大な扇風機が必要だったりします。
  • カビや菌の急激な繁殖: この高温多湿の環境は、ピシウム病やブラウンパッチと呼ばれる芝生の病気(カビや菌による病害)を爆発的に蔓延させます。
  • 酸欠による根腐れ: 土壌が常に湿った状態になることで根が呼吸できなくなり、選手が踏み込んだ瞬間に芝が根元からごっそりとえぐれる脆いピッチが出来上がってしまいます。

③ 各クラブが挑む「品種改良」と「最新テクノロジー」

この気候変動に対抗するため、欧州のトップクラブは莫大な資金を投じてテクノロジーによる解決を図っています。

対策のアプローチ具体的な内容
最新空調システムの導入ピッチの地下にパイプを張り巡らせ、冷水を循環させるクーリングシステムや、冷風を直接土壌に送り込む「サブエアー・システム」の導入。
暖地型芝を使用これまで日本国内や中東、アメリカ南部で使われていた暑さに強い品種(バミューダグラスなど)を採用。実際にスペインでは近年、南部の方では夏芝を採用し始めたクラブが急増。私も実際にセビージャさんのスタジアム、練習場に足を運び確認させていただきました。
データ駆動型の散水管理ピッチ各所の土壌温度と水分量をセンサーで24時間監視し、菌が繁殖しにくいギリギリの水分量だけを自動でピンポイント散水するシステムの運用。

このように、現在のヨーロッパのピッチ作りは単なる園芸の領域をとうに超え、気候変動という地球規模の課題に最先端の科学とテクノロジーで立ち向かう巨大プロジェクトへと変貌を遂げています。

個人的に期待しているのは、日陰に強い夏芝の開発がより積極的になるのではないかという点。

今まではヨーロッパで夏芝と言ったらほぼ無縁という存在でしたが、使用され始めると夏芝の市場規模も拡大してくることでしょう。となれば、屋根のあるスタジアムでも採用したいと考える芝生管理者もいるはず。

なぜ日本の屋根付きスタジアムの芝生管理が苦戦を強いられるのか?プレミアリーグとの違いはどこにある?
日本国内に屋根付きスタジアムが増えてきている中で、なぜ屋根のあるスタジアムの芝生管理が苦戦を強いられているのか。その理由に迫ります。

上の過去のブログ記事は、日本国内のスタジアムでなぜ芝生管理が苦戦するのかという点で、夏芝は光の要求量が非常に高く、日陰に弱く、根付かないという問題点を挙げています。

実際にセビージャさんのスタジアムでも、今は屋根がないから夏芝を育てられるけど、屋根があったらマズいかもね・・・といったことをお話しされていました。私も日本ではそういう問題が起こていて、なかなか理解されていないんだ・・・とお伝えしておきました。

新しい夏芝の開発により積極的になってくれたら、日本にとっても棚からぼたもち。気候変動によってちょっとしたサプライズもあるかもしれませんね。

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